猫の注射部位肉腫とは?原因・症状・予防法を獣医師が徹底解説

猫の注射部位肉腫とは?原因・症状・予防法を獣医師が徹底解説

猫に注射した薬剤が原因で、ごく稀ではありますが注射したところにしこりができることがあります。「注射部位肉腫」と呼ばれる腫瘍です。今回は猫の注射部位について詳しく解説します。

猫の注射部位肉腫とは?

猫の注射部位肉腫とは?

注射接種後に発生するまれな悪性腫瘍

猫の注射部位肉腫とは、注射をした部位に発生する悪性腫瘍です。発生頻度は1万頭に1頭程度とされ、かなり稀な腫瘍です。明らかな原因は十分に解明されていませんが、ワクチン接種とも関連があるため、ワクチン接種部位肉腫とも言われています。

「注射部位肉腫(Injection site Sarcoma:ISS)」の定義

注射部位肉腫とは、注射をした部位に発生する肉腫という悪性腫瘍です。線維肉腫と呼ばれる悪性腫瘍が多くを占めています。中高齢以降の猫に発生し、皮膚の下に大きなしこりを作ります。注射部位肉腫は肺などへの他の臓器への転移も起こりうる腫瘍ですが、腫瘍が周りに根を伸ばす局所浸潤をしやすいのが特徴です。また、手術で摘出しても6ヶ月後には8割程度で再発が見られます。
注射部位肉腫は、中高齢以降の猫に発生する傾向があり、また猫白血病ワクチンなどの不活化ワクチンを受けた経験があると発生リスクが上昇します。

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どのワクチンで発生リスクが高いのか?

ワクチンとの関連性があると考えられており、猫白血病ワクチンや狂犬病ワクチン(日本では猫は接種対象外)などの不活化ワクチンというワクチンが原因と考えられています。ワクチン以外にも治療で使用された注射や、ケンカ傷でも発生することがあります。

注射部位肉腫の原因

注射部位肉腫の原因

ワクチンの添加物(アジュバント)の影響

注射部位肉腫はワクチン接種との関連が指摘されています。ワクチンには生ワクチンと不活化ワクチンがありますが、注射部位肉腫は不活化ワクチンに見られます。不活化ワクチンは、病原体の感染力をなくし免疫をつけるために必要な成分をワクチンにしたものです。この成分だけでは免疫がつかないため、アジュバントと呼ばれる物質が添加されています。注射部位肉腫は、このアジュバントが原因で腫瘍化が起こると考えられています。

ワクチンだけでなく、皮下の炎症により腫瘍化が起こると考えられているため、皮下注射やケンカ傷でも発生する可能性があります。

ワクチン接種部位肉腫の症状と飼い主が注意すべきポイント

ワクチン接種部位肉腫の症状と飼い主が注意すべきポイント

ワクチン接種後のしこり

ワクチンを打ったあと、一時的に腫れることがあります。これは打った場所に炎症が起こるためです。通常の炎症によって起こるしこりは、6~8週間以内に自然に消滅します。

しこりが長期間消えない、または大きくなる場合の危険信号

炎症によって起こるしこりは2か月以内に消滅しますが、注射部位肉腫は自然になくなることはなく、大きくなっていくのが特徴です。注射部位肉腫に対する組織生検のガイドラインでは、次のようなしこりがある場合は検査が必要と記載されています。

  • 注射後3か月以上しこりが存在する
  • 直径2㎝以上の大きさ
  • 注射後1か月以上経過しても大きくなる

この特徴があるしこりを見つけたら、すぐに動物病院で検査が必要です。

触診でチェックすべきポイントと、受診のタイミング

ワクチンを打った直後は腫れてしまったり、しこりのようになることもありますが、通常2か月程度で自然になくなります。しかし、前述した特徴に当てはまる場合は注射部位肉腫の可能性があるため、動物病院を受診する必要があります。

注射をしたあと、時々その場所を触ってみて、しこりがあるようであれば大きくなっていないかを確認するようにしましょう。

ワクチン接種部位肉腫の診断と治療法

ワクチン接種部位肉腫の診断と治療法

獣医師による触診と生検の重要性

注射部位肉腫は周囲の組織に広がっていくため、周りの組織としこりの境がわかりにくいことがあります。またリンパ節への転移の有無を確認するためにも、全身の触診が必要になります。

注射部位肉腫は肉芽腫などの別のしこりと診断がされてしまうことがあるため、原則的にはしこりを切除して検査する組織生検が望ましいとされています。組織生検は腫瘍細胞がどこまで周りの組織に入り込んでいるかも確認することができます。

X線検査やCT、MRIによる腫瘍の広がりの確認

注射部位肉腫は肺への遠隔転移をすることがあるため、必ず転移の確認のためにX線検査を行います。また、腫瘍細胞がどこまで入り込んでいるか、内臓への転移がないかを確認するために、CTなどを撮影することも必要になります。

治療を行っても再発しやすい腫瘍なので、定期的にこれらの検査を行います。

外科手術・放射線治療・化学療法の選択肢と治療成績

注射部位肉腫の治療は外科手術により取り除くことが第1選択となります。しかし、注射部位肉腫は周りの組織に根を張る局所浸潤が強く、正常な組織も含めかなり広範囲に切除する必要があります。足の場合は断脚といって、足自体を切断します。直径が1cm程度の腫瘍であれば完全に取り切れる可能性もありますが、かなり広範囲に切除しても再発する可能性が高くあります。完全に取り切れていない場合は、放射線治療や化学療法(抗がん剤)も併用します。

それぞれの治療法について、再発までの治療成績を比較した報告があります。

治療方法 再発期間
  外科手術のみ(腫瘍の切除のみ) 2か月
拡大外科手術(腫瘍+広範囲な切除) 9~10か月
化学療法

腫瘍が抑えられた期間

3~4か月

放射線治療+外科手術+/-化学療法 12~24か月

ワクチン接種部位肉腫を予防するためにできること

ワクチン接種部位肉腫を予防するためにできること

ワクチン接種の頻度や種類を獣医師と相談する

ワクチンの接種頻度は、飼育環境やワクチンの種類によっても変わりますが、「犬と猫のワクチネーションプログラム」では3年ごとの接種を推奨しています。頻回に同じ部位にワクチンを打つことで、注射部位肉腫の発生リスクが上がるとされているからです。ワクチンがどれだけ体に残っているかを調べるワクチン抗体価検査というものもあるため、抗体価を調べてからワクチンを接種するのも良いでしょう。

現在のワクチン接種部位は、足に打つことが推奨されています。これは万が一注射部位肉腫ができたとしても、足を断脚することで命を救うことができるからです。

接種後の定期的なしこりチェックと早期発見の重要性

ワクチンを接種してすぐは、炎症により接種した場所が腫れることがあります。通常このしこりは2か月程度で自然になくなりますが、注射部位肉腫は3か月経っても消えることがありません。ワクチンを打った場所を定期的に触るようにし、消えないしこりがある場合はすぐに動物病院を受診しましょう

まとめ

まとめ

注射部位肉腫はワクチンなどの注射により発生する悪性腫瘍です。かなり稀な腫瘍ですが、周りの組織に拡がりやすく、再発しやすい腫瘍です。腫瘍の治療には早期発見・早期治療が重要です。定期的にしこりのチェックをして早期発見に努めましょう。


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