【獣医師執筆】高齢猫の認知症を予防する5つの習慣と早期発見のポイント

【獣医師執筆】高齢猫の認知症を予防する5つの習慣と早期発見のポイント

近年、獣医療の発達や飼育環境の向上により、かなり高齢まで生きる猫が増えてきました。猫の平均寿命は約15歳と言われており、認知症を発症する猫が出てきています。今回は高齢猫の認知症について解説します。

高齢猫にも認知症がある?主な症状と発症の仕組み

高齢猫にも認知症がある?主な症状と発症の仕組み

猫の認知症(認知機能不全症候群:CDS)とは

獣医学の発展や飼育環境の向上により、猫の寿命も延びています。猫も人と同様に高齢になると認知症を発症します。認知症は、正式には認知機能不全症候群(Cognitive Dysfunction Syndrome: CDS)と呼ばれています。

人間の認知症は、脳血管型認知症とアルツハイマー型認知症が最も一般的です。猫のCDSはヒトのアルツハイマー型認知症に似ており、まったく同じではありませんが、脳にアミロイドという物質が沈着するといった点で共通しています。それ以外にも脳梗塞や脳腫瘍などの脳の病気や、全身性の病気などに伴っても認知機能の低下が起こります。

猫では11歳以上から徐々に発症のリスクが上がってきます。

認知症の代表的な症状

認知症の代表的な症状は夜泣き徘徊などがありますが、その他にも多くの症状が現れます。

性格が変わった、ずっと寝ている、狭いところに入りたがる、頭を壁に押し付ける、粗相をする、昼夜逆転する、以前学習した行動ができなくなるなどがあります。

認知症になりやすい猫の特徴

認知症になりやすい猫の特徴

発症リスクが高まる年齢

猫は7歳以上から様々なトラブルが多くなるため、シニア期の始まりとされています。猫は10歳を過ぎると認知機能が低下が見られる猫が増えてきて、15歳以上では半数程度の猫で何らかの認知症の症状が現れていると言われています。

猫の種類や遺伝性、その他の要因が認知症に関連しているかはわかっていません。

獣医師が教える!高齢猫の認知症予防の5つの習慣

獣医師が教える!高齢猫の認知症予防の5つの習慣

猫の認知症は、治療法が確立していません。また、完全に予防することもできませんが、適切なケアで進行を遅らせたり、症状を軽減することは可能です。

① 適度な運動と遊びで脳を活性化

適度な運動や遊びは、脳の活性化につながると考えられています。遊びもいつも行っているものでなく、新しいおもちゃを使ったり、少し考えさせるような知育玩具を取り入れると良いでしょう。

② 視覚・嗅覚・聴覚への日々の刺激

視覚・嗅覚・聴覚は脳へ刺激を伝達します。それらの刺激が多ければ、脳は情報を処理しようと活性化します。いつも同じ刺激では飽きてしまうので、新しい刺激を取り入れるようにしましょう。おやつを隠して探させる遊びなど、五感をフルに使うと良い刺激になります。

③ 高齢猫に適した栄養バランスの食事

フードには高齢猫用のフードがあります。高齢猫は消化機能が低下してきていることがあります。また、活動量が少なくなるためカロリーオーバーになることがあります。高齢猫のフードは胃腸に負担がかかりにくく、低カロリー、リンや塩分を控えた設計になっています。また、フードによってはDHAやEPAといった、認知機能に良い影響を与える成分が添加されているものもあります。

④ DHA・EPA・抗酸化成分を含むフードやサプリ

DHAやEPAといったオメガ3脂肪酸は抗酸化作用があるとされ、認知症の進行を抑える効果が期待されています。そのため、高齢期のフードに添加されていることもありますし、サプリとしても販売されています。これらの成分は認知症の進行を抑えられる可能性がある他、関節炎や慢性腎臓病、心疾患、皮膚疾患にも効果が期待されています。

⑤ 飼い主とのコミュニケーション時間の確保

飼い主さんとコミュニケーションを取ることは、猫の脳を刺激します。名前を呼んだり、話しかけたりしましょう。優しく話しかけながらブラッシングや体をマッサージすると、皮膚や関節の刺激にもなります。

もし「認知症かも?」と思ったら:早期発見と対応方法

もし「認知症かも?」と思ったら:早期発見と対応方法

獣医師の診察を受けるタイミング

現代の獣医学では、認知症を明確に診断する方法がありません。血液検査などには数値として現れず、頭のCT検査やMRI検査によって他の脳疾患と鑑別する必要があります。つまり、他の病気でも認知症を疑うような行動変化が現れるということです。そのため、普段と違う行動が見られたら、「高齢だから」とか「認知症になってるんじゃないか」と決めつけず、動物病院を受診することが必要です。

認知機能を評価する行動チェックポイント

猫の認知機能を評価する行動のチェックポイントがあります。チェックの数が増えてくるほど認知症の可能性がありますが、それ以外の病気でも同様の症状が出ることがあります。

  • 7歳以上だ
  • 夜中にひどく鳴くようになった
  • 部屋の中を目的なく、歩き回るようになった
  • トイレの場所がわからなくなった
  • 今までしなかった場所で粗相するようになった
  • 日中、寝てばかりいて、夜中に起きている
  • 眠りが浅くなり目覚めやすくなった
  • 今までになくベッタリとくっついてくるようになった
  • ごはんを食べてもすぐに欲しがる
  • 体の一部を、繰り返し、しつこく舐めるようになった

進行を遅らせる治療・ケアの選択肢

認知症は完全に予防したり、治療することはできないため、いかに進行を遅らせるかがポイントになります。そして、飼い主さんが猫の行動変化を認め、付き合っていく根気も必要となります。

刺激のない生活は認知症の進行を早めると考えられています。そのため、積極的に猫に関わり、脳に刺激を与えるようにしましょう。体をマッサージするのもよいでしょう。刺激になるだけでなく、血行促進や関節拘縮予防にもなります。

フードは猫の年齢にあったものを選びましょう。DHAやEPAなどのオメガ3脂肪酸を含むものがおすすめです。また、それらのサプリを取り入れるのもよいでしょう。

認知症になっても幸せに暮らすためにできること

認知症になっても幸せに暮らすためにできること

環境調整:トイレや寝床の位置、段差解消など

認知症の猫だけでなく、高齢期の猫は関節や腎臓の問題が出てきます。段差を越えることができなくなったり、あまり距離を歩くことができなくなったりします。また、慢性腎臓病により、多尿になります。認知機能が低下することで、トイレの位置を正確に把握できにくくなり、粗相が増えてきます。そのため、トイレは猫が行動する範囲に設置し、なるべく段差の少ない物にしましょう。猫ベッドも段差の少ない物にし、トイレからは少し離して設置しましょう。フードや飲み水もそうですが、猫はトイレの周りから離れて生活するためです。

飼い主が焦らず向き合うための心構え

認知症になると、様々な症状が飼い主さんを悩ませます。最も悩まされるのが昼夜逆転や夜鳴き、徘徊、粗相です。特に昼夜逆転と夜鳴きは、認知症の相談内容で最も多いと思われます。

認知症の症状は決して飼い主さんを困らせようとしているのではなく、脳の機能低下で起こります。そのため、叱っても決して治らず、むしろ関係を悪化させる恐れがあるため、絶対に叱らないようにしましょう。

困った症状が出てきたら、それに対して対応するようにしましょう。たとえば、徘徊してしまうようならある程度の広さのあるサークルの中で生活してもらったり、入り込んでしまうような隙間を隠してしまうなどです。粗相が気になるのであれば、トイレの数や種類を変えたり、床にペットシーツを引いて対応することもできます。

しかし、昼夜逆転とそれに伴う夜鳴きは対応が難しいものです。なるべく日中に刺激を与え、夜寝てもらえるように生活パターンを変えてもらうように指導しますが、飼い主さんが日中いない場合はうまくできないこともあります。飼い主さん自身が夜寝れなかったり、夜鳴きで近所から苦情が入ったというケースもあり、深刻な場合は安楽死が検討される場合もあります。昼夜逆転や夜鳴きに対するサプリもあるため、そういったものを使うのもよいでしょう。抗不安薬や睡眠薬を処方することもありますが、認知症の進行を早める可能性があるとも言われています。しかし、飼い主さんにそれらを説明した上で処方が検討されます。

介護はいつか終わりが来ます。飼い主さんが猫と向かい合い、無理のない範囲で行うことが重要となります。

他の持病(腎臓病など)との関連と注意点

高齢期になると関節炎や慢性腎臓病などの病気も現れます。関節炎により動きにくくなり、活動範囲が狭くなります。段差も越えにくくなります。また、慢性腎臓病により多飲多尿になり、トイレが間に合わなくなることも増えてきます。これらは認知機能に問題がなくても起こる可能性があるため、もし他の病気によって認知症のような症状が出ているのであれば、早めに治療することで改善がみられる可能性があります。認知症と決めつけずに、動物病院できちんと診断してもらいましょう。

まとめ

まとめ

猫の認知症は10歳以上から少しずつ起こり始めます。認知症は治療法や予防法はないため、進行を遅くすることが重要となります。遊びやコミュニケーションなどで脳に刺激を与えるだけでなく、フードの見直しや生活環境の改善で、少しでも進行を遅らせましょう。


コメント:1


  • はち

    とても勉強になる記事でした。我が家にも、まだまだ元気ですがハイシニアの猫がいます。これからもしもの時の為に、とても参考になりました。予防の為にも、もっと一緒に遊んであげなきゃと思いました。


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