猫の悪性腫瘍の一つに悪性黒色腫(メラノーマ)というものがあります。犬では多く発生しますが、猫では稀な腫瘍です。この腫瘍は転移しやすいことが知られています。今回は、猫の悪性黒色腫について解説します。
悪性黒色腫(メラノーマ)とは?

メラノサイト(色素細胞)のがん化によって生じる腫瘍
悪性黒色腫とは、メラノサイトが腫瘍化したものです。メラノサイトとは、メラニンという色素を産生する細胞で、このメラニンは紫外線による細胞の損傷を防ぐ役割を担っています。悪性黒色腫の発生原因は不明です。
猫では比較的まれだが、口腔・目・皮膚に発生することがある
メラノサイトはメラノサイトが分布する組織で発生します。メラノサイトは眼、口、皮膚、指に存在するため、これらの組織が好発部位になります。犬では多く発生しますが、猫では稀な腫瘍です。
良性と悪性の違いについても解説
黒色腫には悪性と良性のものがあります。良性のものは転移や病変の広がりがなく、切除すれば完治します。悪性の場合は転移が起こり、急激に大きくなる傾向があります。切除しても再発する場合があります。
皮膚のメラノーマは良性のことが多いですが、爪にできたメラノーマは悪性度が高い傾向にあります。また、目や口の中にできるメラノーマも悪性のことが多いです。
飼い主が気づく悪性黒色腫(メラノーマ)の主な症状とよくできる場所

黒いしこりや盛り上がったできもの
皮膚のメラノーマは、基本的には黒く硬く半球状に膨らんだ見た目で脱毛しています。そこから出血したり、潰瘍ができることもあり、感染を伴うこともあります。悪性の場合、急激に大きくなります。
口の中の潰瘍・出血・よだれなどの異変
口腔内のメラノーマは口の中に腫瘤ができ、そこから持続的に出血します。血や膿の混じったよだれも出る場合があり、口臭も強くなります。腫瘤が大きいと口が閉じられなくなったり、フードが食べにくくなる、飲み込みにくくなることがあります。
足の指や眼にもできるケースあり
指先や爪、目にできることもあり、特に爪や目は悪性の場合が多くあります。指先や爪の場合、腫瘍ができた部分が腫れてきたり、爪が変形することもあります。目のメラノーマは、虹彩と呼ばれる黒目のふちに色素沈着することがあります。眼球の中に発生した場合は、目が大きくなってきたり変形することがあります。
他の皮膚疾患との見分けが難しい
悪性黒色腫は、黒色のイメージがありますが、黒い色素を含まない場合もありますし、赤く腫れることもあります。そのため、見た目だけで判断するのは難しい腫瘍です。
悪性黒色腫(メラノーマ)の診断方法と検査の流れ

視診だけでは判断できない理由
メラノーマは他の皮膚疾患や腫瘍とも似ています。また、目の中のメラノーマは見えない部分にできることがあるため、視診だけで判断はできません。診断には、必ず組織の一部を取って、病理検査を行う必要があります。
針吸引細胞診・切除生検・病理検査で確定診断
メラノーマの診断には、腫瘍細胞の検出が必要になります。皮膚のメラノーマであれば針吸引細胞診で診断できることもありますが、口腔内や目の中の場合は病変部分を切除する切除生検を行い、病理検査で確定診断を行います。
転移確認には画像診断を実施
メラノーマはすぐ近くのリンパ節に転移することがありますが、遠隔転移もする腫瘍です。口にできた腫瘍が顎のリンパ節への転移だけでなく、肺に転移することもあります。メラノーマ自体、発見や診断に時間がかかることもあるため、転移が起きていることもあります。そのため、転移を確認するためにレントゲン検査、超音波検査、CT検査などの画像診断が実施されます。
悪性黒色腫(メラノーマ)の主な治療法について

外科的切除
メラノーマの治療は、まず外科的切除が検討されます。完全切除することで、完治する場合もあります。しかし、メラノーマは進行が早く、周りの組織に入り込んでしまう(浸潤)ため、広範囲に切除する必要があります。それでも再発や転移の可能性はあります。切除範囲はかなり広く、場合によっては骨も切除します。例えば、爪や手足の皮膚であれば断指や断脚、目なら眼球摘出、口の中であれば下顎骨や上顎骨の摘出が行われます。
外科手術は完治を目指すだけでなく、一時的なQOLの改善のために行われることもあります。例えば口腔内のメラノーマの場合、食事が摂れなくなったり呼吸困難になるため、腫瘍を小さくする減量手術が行われます。
完全切除が難しい部位では放射線療法が行われることも
腫瘍の範囲が広範囲であったり、完全に切除ができない場合、また転移がある場合は放射線療法が行われます。メラノーマは抗がん剤が効きにくい腫瘍ですが、放射線療法で効果があるため、手術と併用して行われる場合があります。放射線治療は12回など複数回に分けて放射線を照射します。照射中は腫瘍だけに放射線を照射するため、動物の場合は全身麻酔下で行われます。そのため、かなり高額な治療と言えます。
治療後の経過観察・QOL維持のためのケアも大切
メラノーマの治療後は、手術の場合、かなり広範囲に切除するため、指や足、目を摘出することがあります。通常猫は、摘出後も普段と変わりなく生活ができますが、再発の可能性が高いため定期的な通院が必要になります。
口腔内のメラノーマを摘出した場合、顎の骨も一緒に摘出することがありますが、その場合は自力でご飯を食べることができなくなります。そのため、手術と同時に食道にカテーテルチューブを設置し、そこから流動食を入れることになります。
また、腫瘍が大きかった場合などは完全に摘出できないことも多く、治療後も何らかの症状が現れます。例えば出血や感染、痛みが現れるため、対症療法が必要になります。放射線療法を行った場合、放射線による障害も現れます。麻酔をかけるため麻酔リスクはありますし、放射線による皮膚炎や造血障害(出血、感染、貧血など)、目に近い部分では白内障が起こる可能性もあります。
メラノーマは転移や再発の可能性がある腫瘍なので、定期的な診察は必要です。他に症状があるようであれば、対症療法などで状態を安定させることも必要です。食道カテーテルを設置した場合は、必要な栄養の確保やカテーテル挿入部の感染に注意する必要があります。
早期発見が命を救う:飼い主にできる日々の観察ポイント

口の中や指の間、耳など、見落としがちな部位を定期的に確認
メラノーマは口の中や指の間、耳などしっかりと見れない部分にできることがあります。そのため、腫瘍が大きくなってきてから気づくことが多いです。定期的にそういった場所を見るようにしましょう。口の中を見ることは難しいため、健康診断などで診てもらうのがよいでしょう。
小さなしこり・色素沈着を見逃さない
メラノーマはなるべく早く見つけ、治療に入ることで予後が変わってきます。はじめは小さくても急激に大きくなるので、大きくなる前に診断、治療に進むことが大切です。見た目ではわからないことも多く、一見シミに見えてしまうこともあります。シミと思い込まず大きくなるものは必ず診察を受けましょう。また、黒い色素がないこともあります。黒くないから大丈夫と思わないことも必要です。
年1〜2回の健康診断でスクリーニングを
年1〜2回の健康診断は病気の早期発見にとても重要です。悪性黒色腫を健康診断で見つけることは難しいですが、口や目の診察で異常を指摘されることはあります。毎年定期的に健康診断を受けることで、飼い主さんが何に注意しておくべきかもわかります。そういった意味でも、定期的に健康診断を受けるようにしましょう。
まとめ

悪性黒色腫は進行が早く、急激に大きくなったり転移が起きたりします。なるべく早く治療を開始することで、完治を望めるかもしれません。もししこりを見つけたら、様子を見ずに必ず動物病院を受診しましょう。
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