こんにちは、ぽぽねこの栗山です。
「さくらねこ」って聞いたことありますか? さくらねことは耳先をカットされた猫のことで、不妊手術済みの目印としてつけられたものです。たしかに、桜の花びらみたいな形をしていますよね。
外で暮らす「飼い主のいない猫」に不妊手術をすることで繁殖を防ぐことができます。殺処分されてしまう命を生ませない。そんな取り組みをTNR(猫を捕獲して不妊手術をし、元の場所に戻すこと)といいます。
このTNRを無料で行う取り組みを行っているのが「公益財団法人どうぶつ基金」です。地域猫活動の現状や殺処分ゼロにかける想いなど、理事長の佐上 邦久さんにお話しをうかがいました。
コロナ禍でもTNRは止められない
栗山:
猫の殺処分数は減少傾向にあります。地道なTNR活動が実を結んでいるんですね。
佐上さん:
どうぶつ基金では、これまで14万頭を超える猫に無料で不妊手術を行ってきました。そのかいあって、2006年に23万頭だった猫の殺処分は約3万頭まで減少しています。
栗山:
コロナ禍で地域猫活動や譲渡が思うようにできない、という声も聞こえてきます。活動に支障はありませんでしたか?
佐上さん:
緊急事態宣言が発布されて以降も、どうぶつ基金の活動内容に変化はありません。感染対策を十分にしながら、離島での出張手術も行いました。地方自治体との協働事業である、飼い主のいない猫への一斉TNRも実施しています。

▲鹿児島県十島村中之島での出張不妊手術(画像提供:どうぶつ基金)

▲和歌山県橋本市と協働で飼い主のいない猫への一斉TNRを実施(画像提供:どうぶつ基金)
緊急事態宣言中は全国で活動するボランティアの皆様から「TNRが思うようにできなかった」というご報告もありましたが、さくらねこ無料不妊手術のチケット発行数自体はコロナ禍のなかでも増え続けています。
【さくらねこ無料不妊手術とは】 さくらねこ無料不妊手術事業は、飼い主のいない猫の問題を殺処分ではなく不妊手術(TNR)によって解決しようとする行政や団体・個人のボランティアを支援する事業です。全国の協力病院で使用できる「無料不妊手術チケット」を発行し、1匹でも多くの猫に不妊手術を施すことで殺処分ゼロの実現をめざしています。 |
栗山:
コロナ禍でも支援は止められないですよね。
佐上さん:
その通りです。コロナ以降、多頭飼育崩壊による救済を求めるSOSが連日、全国の行政から届いています。
これまで多数の多頭飼育崩壊救済を行ってきましたが、先日支援を行った犬164頭をはじめ、猫80頭、猫30頭など支援の依頼が相次いでおり、今年の状況は異常事態だと感じています。
多頭飼育崩壊からのレスキュー
画像提供:どうぶつ基金
栗山:
コロナ禍でのTNR、里親探し、多頭飼育崩壊の救済、大変な1年でしたね。
佐上さん:
いろいろな問題を並行して解決しながら、ヒトの事情によって行く末を左右されてしまう犬や猫たちへの想いを強くした1年でした。
栗山:
ニュースを拝見しましたが、出雲市の多頭飼育崩壊は衝撃的でした。
佐上さん:
私も非常に驚きました。島根県からどうぶつ基金に多頭飼育崩壊救済の依頼があり、現場を視察したところ、8畳2間に182頭もの犬がすし詰め状態で虐待飼育されていたんです。
▲不衛生な環境ですし詰めになっている犬たち(画像提供:どうぶつ基金)

▲やせ細り、ケガをしている犬もいたそう(画像提供:どうぶつ基金)
全頭を保健所で一旦保護し、不妊手術、傷病治療、寄生虫駆除、ワクチン投与、ノミ駆除等の獣医療をどうぶつ基金が無償提供しました。狂犬病予防接種のみ1頭当たり1,000円を飼い主が負担しています。
栗山:
本当にレスキューできてよかった!
佐上さん:
ニュースで大きく報じられたこともあり、幸いなことに12月1日までに全頭の譲渡先が決まりました。
栗山:
つらい経験をした犬たちには、穏やかに暮らしてほしいですね。多頭飼育崩壊は犬だけでなく、飼い主への支援も必要な深刻な問題だということを考えさせられました。
保護猫のこと、もっと知ってほしい
画像提供:どうぶつ基金
栗山:
「どうぶつ基金」のそうした活動はすべて寄付金でまかなわれています。コロナ禍の自粛ムードの影響はありますか?
佐上さん:
コロナ禍が収まる見通しがないなか、継続寄付を停止したいというお申し出が相次ぎ、残念ながら殺処分ゼロ実現のための資金不足が深刻になっています。
一方でおうち時間を過ごす方が増えたせいか、どうぶつ基金の活動に新たに興味を持ってくださった方も増えたように感じます。活動に対するご質問や応援のお言葉をいただきました。
栗山:
保護猫や保護犬に興味を持ってくれる人が増えるのはいいことですね。外出が自由にできない今、ペットを飼い始める人が増えているそうですが、保護猫や保護犬の譲渡数は増えていると感じますか?
佐上さん:
ペットを飼い始める人は増えたかもしれませんが、保護猫や保護犬の譲渡数がそれに比例して増えたとは言えないのではないでしょうか。
感染拡大防止のため譲渡会の開催が制限され、開催しても来場者が激減している施設もあると聞きます。保護施設やシェルターを持つ動物愛護団体や個人活動家の多くが、オンラインでの譲渡会を開催するなど工夫をされていると思いますが、譲渡が思うように進まず厳しい状況に置かれていると感じています。
また、衝動買いした犬や猫を手放す人も出始めたと聞いています。
栗山:
安易にペットを飼う人がいるというのは悲しいです。苦しい状況ですが、殺処分数はどうなっているのでしょうか?
佐上さん:
殺処分数については、まだ環境省からデータが発表されていないため、コロナ禍でどのような変化が起こっているか現時点でははっきりしません。でも、譲渡に熱心な自治体などは、殺処分を避けるために四苦八苦されていることと思います。
買わずに飼ってね
画像提供:どうぶつ基金
栗山:
「保護猫」という言葉も一般的になってきて、保護猫を迎え入れる里親も増えているように思えますが、いかがでしょうか?
佐上さん:
確かにそうですね。保護猫を飼う方は増えてきました。
どうぶつ基金はかねてから「買わずに飼ってね」を推奨してきました。これからも、保護猫や保護犬を迎え入れるという選択肢が世の中の当たり前になるよう広報活動に力を入れていきたいと考えています。
栗山:
保護犬や保護猫の里親探しにも力を入れていらっしゃいますよね。
佐上さん:
どうぶつ基金が毎年開催している「いのちつないだ♡ワンニャン写真・動画コンテスト」は里親探しの場も兼ねています。
被写体は行政や動物愛護団体、個人ボランテイアから譲渡された犬や猫、町で保護した犬や猫で、保護猫や保護犬について知ってもらおうと始めた取り組みです。さくらねこや地域猫、保護猫を迎え入れた里親様からの応募も増えていますよ。
殺処分ゼロをめざして「地域猫バージョン2.0」へ
画像提供:どうぶつ基金
栗山:
TNRによって殺処分ゼロをめざす取り組みをされていますが、現状どのような課題をお持ちですか?
佐上さん:
さくらねこTNRの重要性が、まだまだ周知できていないことですね。地域猫活動は10年以上前から環境省も推奨しているのですが、なかなか普及していません。
理由は明らかで、行政が定めた地域猫のハードルが高すぎるからです。飼い主のいない猫に税金を使って不妊手術をしようというのは難しいのかもしれませんね。
栗山:
不妊手術をしないことには問題は解決できないですよね。
佐上さん:
そうですね。なので地域猫バージョン2.0として「TNR先行型地域猫活動」を積極的に勧めています。
何よりもまずはノラ猫に不妊手術をする。そうすれば子猫は産まれなくなりますし、発情期の鳴き声や臭いおしっこスプレーも激減します。話し合いをしているうちに子猫はどんどん増えますからね。
▲生後6か月ほどで繁殖可能になる(画像提供:どうぶつ基金)
栗山:
行政に頼れないとなると、無料で不妊手術が受けられる「さくらねこTNR」が本当にありがたいです。
佐上さん:
TNRを成功させるには「1.すぐやる」「2.全部やる」「3.続ける」の3つがすべて行われなければなりません。それができるのが「TNR先行型地域猫活動」であり、ボランティアさんたちの力だと思っています。
猫の殺処分ゼロのためにも、来年度も引き続き地域猫活動の支援を行っていきます。
栗山:
さくらねこについて知れば、公園でノラ猫に餌をあげる理由もわかってもらえます。地域猫についてもっと知られるべきですし、里親や活動支援の輪も広げたいです。
佐上さん:
残念ながら保護されて里親に巡り合える猫はほんの一握りです。その一握りからもれてしまった猫たちを救うのが「さくらねこ無料不妊手術事業」です。
直接の支援ができなくとも、「さくらねこ」とは何か、TNRとは何か、殺処分の現状はどうなっているのかなどを正しく知っていただくことが大切だと考えます。
公園でさくらねこを見かけたら、やさしく見守ってくださいね。
どうぶつ基金による「さくらねこ無料不妊手術事業」によって、不幸な猫を増やさない地域猫活動は実を結びつつあります。
TNRを成功させるには佐上さんのおっしゃるように「すぐやる・全部やる・続ける」ことが重要です。ですが、そのためには資金が必要です。ぽぽねこでも売上の一部をどうぶつ基金へ寄付していますが、まだまだたくさんの方からの支援が必要です。
猫を飼えなくても、猫を助けることができます。1日66円から寄付ができるので、ぜひ以下のページからお申し込みをお願いします。
https://www.doubutukikin.or.jp/contribution3/
■公益財団法人どうぶつ基金 1988年創立。動物たちのため、そして人間社会のため、殺処分される犬や猫を1匹でも減らそうと「里親探しNPO支援」と「TNR先行型地域猫活動」を行う。TNRの啓発イベントや譲渡の助成金制度などの事業にも取り組んでいる。 |
■佐上 邦久さんプロフィール 公益財団法人どうぶつ基金 理事長。殺処分ゼロを実現するにはノラ猫の不妊手術が最も重要と考え、猫の無料不妊手術「さくらねこTNR」を続ける。2019年度は32,811頭の猫に無料不妊手術を実施。命を大切にした丁寧な活動を行う。 |
こちらの記事、一気に読ませていただきました。
私自身、駅で繁殖している猫達のために活動開始したところです。
地域猫活動がもう少しハードルを下げて、難しい手続きを省ければもっともっと多くの命を救う事が出来ると思います。
ボランティアで時間も経済的負担もたくさん抱えて活動されてみえる方にも何か行政の補助ができないだろうかとも考えます。
現場の声をどうしたら、どこへ届けたらもっと活動が広がるのか分からず悶々とする日々です。
ひとつ感じるのは、まだまだTNR自体を知らない人が多いということです。
もし、マスコミなどのメディアでCMを頻繁にみかけるようになれば、自然とたくさんの人が関心を寄せてくれるのではと思います。
大きな団体の方や動物愛護団体の方になんとかお願いできないものかと思う日々です。
あわせて、日頃から地道な活動をされてみえる方々に感謝いたします。
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