猫の首輪装着に伴う局所性脱毛（首輪ハゲ）の要因と予防策

要旨

猫における「首輪ハゲ」とは、首輪の装着部位における局所的な脱毛や皮膚炎を指す。軽度の場合は美容的問題に留まるが、慢性的には皮膚疾患や行動学的ストレスの要因となり得る。本記事では、首輪ハゲの原因、リスク因子、臨床的影響、予防法について整理し、飼育管理および製品開発の観点から考察する。

1. 序論

近年、猫は完全室内飼育が推奨され、迷子防止や個体識別の目的から首輪装着が一般化している。しかし、首輪装着に伴う皮膚トラブルの報告も散見される。その代表例が「首輪ハゲ」であり、臨床現場でも相談件数は少なくないという。本記事は、首輪ハゲの発生要因とその予防法を明らかにし、猫福祉の向上に資することを目的とする。

2. 背景

首輪ハゲは、皮膚科領域では機械的脱毛（traction alopecia）に分類される。ヒトにおける髪の牽引性脱毛症と類似の病態を呈することがあり、摩擦・圧迫・素材特性などが関与する。特に短毛種や被毛が細い猫では目立ちやすい。

また、飼い主側の「安全性」への要求（迷子札、鈴、GPS機器、行動記録機器の取り付けなど）が増えることで、首輪にかかる負荷も増加する傾向にある。

3. 原因

首輪ハゲの原因は多因子的である。主な要因は以下のとおりである。

1. 物理的要因
   

• 首輪の固さ・重量・幅（固い、重い、太い）

• 摩擦や締め付け圧の過剰

• 適合サイズの不一致
  

2. 素材要因
   

• 化学繊維による刺激性皮膚炎

• 金属パーツによる接触皮膚炎（ニッケルアレルギーなど）
  

3. 生体要因
   

• 被毛の密度や皮膚感受性（短毛種、老齢猫など）
  

• アレルギー体質や皮膚疾患の既往
  

4. 管理要因
   

• 汚れや湿気の蓄積
  

• 適切なサイズ調整を怠る
  

4. 影響

首輪ハゲ自体は致死的疾患ではないが、以下の二次的影響を及ぼす。

• 皮膚炎の悪化：掻痒感による掻破で細菌感染が生じやすい

• ストレス反応：不快感によりグルーミング過多や行動変化を招く

• 飼育放棄リスク：外見上のトラブルを理由に飼い主の愛着低下を招く可能性

5. 予防と対策

首輪ハゲの予防には、製品選びと飼育管理の両面が重要である。

1. 製品面

• 軽量で柔らかい素材（綿・リネン・シルクなど）の使用

• 幅広デザインによる圧力分散

• 肌あたりの良い縫製とタグレス加工
  

2. 管理面

• 定期的なサイズチェック（指2本が入る程度）

• 1日数時間の「首輪オフタイム」の導入

• 定期的な洗浄と交換

• 脱毛兆候の早期発見（週1回の首周りチェック）

6. 考察

首輪ハゲは、軽視されがちだが猫福祉に直結する課題である。首輪メーカーは「安全性＋皮膚健康」を両立させる設計が求められる。また、飼い主への啓蒙（正しい装着方法・素材選び・定期チェック）は必須である。

7. 結論

猫の首輪ハゲは多因子的な要素から生じる予防可能なトラブルである。製品の改良と適切な使用法の普及により、発生頻度は大幅に低減できる。今後は、臨床データの収集とエビデンスに基づく指針策定が望まれる。