獣医師が徹底解説:猫の不妊手術のメリット・デメリットと術後ケア

獣医師が徹底解説:猫の不妊手術のメリット・デメリットと術後ケア

今の猫飼いさんの常識として、不妊手術が挙げられます。不妊手術は猫の生殖器(卵巣、子宮、精巣)を摘出することです。不妊手術をすることで、望まない妊娠を避けられるだけでなく、発情に伴う行動を抑えることができます。

今回は、猫の不妊手術について詳しく解説します。

猫の不妊手術とは?獣医師が教える基礎知識

猫の不妊手術とは?獣医師が教える基礎知識

不妊手術と避妊手術の違い

不妊手術と避妊手術は両方とも生殖器を切除し、妊娠させないことを目的としており、ほぼ同義語で使われます。一般的には雌猫の場合を避妊手術、雄猫の場合を去勢手術と言い、それらをまとめて不妊手術としています。

不妊手術を行う目的とは?

猫の不妊手術を行う目的は、望まない妊娠を避けること発情行動を抑えることにあります。猫は春と秋に発情シーズンが来ますが、雌が発情することで雄の発情が誘発されます。猫は交尾排卵動物といって、交尾の刺激により排卵が起こるため、ほぼ確実に妊娠が成立します。1回の出産で1~8頭の子猫が生まれ、次の発情シーズンにはまた妊娠が可能になります。そのため、どんどん増えていってしまいます。環境省の計算によると、1頭のメス猫が子猫を産むと、1年後には20頭以上、3年後には2000頭以上も猫が増えるとされています。

発情行動は飼い主さんをかなり悩ませます。猫は発情が起こると、独特な鳴き声や匂いのきつい尿を壁などにスプレーします。交尾の相手を求めて脱走してしまい、交通事故や迷子になることもあります。また、猫同士がけんかをしてしまい、ケガや猫エイズなどの感染症にかかることもあります。

これらの問題を解決するために、不妊手術は必要と考えられています。

手術の具体的な流れと所要時間

手術は生後半年ごろから受けられるようになります。全身麻酔のため、手術当日は絶飲食の指示があります。多くの動物病院が昼の休診時間を手術に充てているため、午前中に預かり術前検査(血液検査、レントゲン検査等)を行い、問題がなければ手術を行います。

手術時間は手術の方法等によっても異なりますが、雌の場合は30分、雄の場合は15分程度です。手術後は麻酔からの回復や出血などを観察するため、数時間もしくは1泊入院をして、問題なければ退院となります。

不妊手術のメリットとデメリットを知ろう

不妊手術のメリットとデメリットを知ろう

病気予防(子宮蓄膿症、乳腺腫瘍など)の効果

不妊手術には子宮蓄膿症や乳腺腫瘍、精巣腫瘍などを予防する効果があります。不妊手術は卵巣、子宮、精巣を摘出するため、そこに発生する病気を防ぐことができます。また、猫の乳腺腫瘍は避妊手術によって予防可能な腫瘍です。乳腺腫瘍は女性ホルモンの影響を受けて発生しますが、猫の乳腺腫瘍は9割が悪性で、気づいた時には転移していることが多い腫瘍です。初回発情までに避妊手術をすると9割ほど発生のリスクが減少し、1歳までの手術で86%が予防できます。

発情がないと他の猫とのけんかが少なくなり、猫エイズなどの感染症のリスクが減ります。

発情行動の軽減とストレス対策

不妊手術は発情行動を抑え、発情から来るストレスをなくすことができます。

猫は発情すると独特な声で鳴きますが、非常に大きく耳障りな声で発情シーズンの間鳴き続けるため、飼い主さんがストレスを感じてしまいます。また、雄猫は非常に匂いのきつい尿を壁などに吹きかけ(スプレー行動)、匂いが取れなくなってしまいます。これは雄猫が自分の情報を雌猫に伝えるための行動ですが、染みついた匂いはなかなか取れません。

発情中はオスもメスも出会いを求めるため、脱走が起こりやすくなります。それにより、交通事故などに遭ってしまうことがあります。また、発情中は興奮しやすくイライラすることがあります。

不妊手術をすると、これらの困った行動がなくなります。また、発情中のストレスがなくなることによって、寿命が伸びる傾向にあることもわかっています。

費用や手術リスクについての現実

不妊手術の費用は動物病院によって異なりますが、おおよその目安として10,000~40,000円ほどです。費用の差は、病院によって使用する薬剤や器具、手術時間が異なるためです。ペット保険に入っている方もいると思いますが、不妊手術は保険適応外です。

手術は全身麻酔で行い体にメスを入れるため、手術のリスクはゼロではありません。しかし、そのリスクは非常に低いものです。術前に検査をして、手術が問題なくできるかどうかを評価してから行います。術中、異常があった場合にすぐ対処できるよう、緊急薬などを準備して手術を行います。それでもリスクをゼロにすることはできません。手術の合併症として挙げられるものとしては、出血、ショック、感染などがあります。

猫にとって最適な不妊手術のタイミングは?

猫にとって最適な不妊手術のタイミングは?

生後いつが理想?性成熟前がベターな理由

猫は生後6か月ごろになると発情し、妊娠が可能になります。そして、体も十分成長するため、手術が問題なく行える状態になります。そのため、生後6か月以降で初めての発情が起こる前に不妊手術することを推奨しています。前述しましたが、メスの場合は初めての発情前に避妊手術をすると、ほぼ確実に乳腺腫瘍を予防できるため、そういった意味でも生後6か月以降で初回発情前の手術を勧めています。

発情期中の手術は避けたほうが良い?

これはメスの場合に言われることがあります。発情中の子宮や卵巣は血管が発達していたり、子宮自体も厚みが増していることがあります。そのため、出血しやすかったり傷口が大きくなる可能性があるため、発情中の手術は避けた方がよいと言われていますが、実際は発情中でも問題なく手術ができています。猫の発情シーズン中は、交尾が行われなければ2週間ごとに発情が繰り返されます。そのため、発情が終わるのを待っていたら次の発情が来てしまった、なんてことはよくあります。そのため、発情中でも手術は行われます。筆者自身も、出血リスクを説明した上で発情中でも手術を行っています。

室内飼育と外飼いの違いが影響する点

室内飼育の場合、常に明るさが確保されているため、通年で発情しやすくなると言われています。そのため、春と秋での発情だけではなく、他の季節でも発情する可能性があります。そのため、生後6か月になったら不妊手術をする方がよいでしょう。また、外飼いの場合は発情行動に気づかずに外に出してしまうこともあり、事故や迷子、望まない妊娠につながることもあります。早い猫だと生後4か月で妊娠した例もあります。

不妊手術後のケア:健康回復のためのチェックポイント

不妊手術後のケア:健康回復のためのチェックポイント

術後の猫の様子と適切な管理方法

術後は麻酔や鎮痛剤が切れてくると痛みが出てきます。多くの猫が傷口を気にして舐めようとしたり、痛みでじっとして動かなくなります。傷口を舐めてしまうと皮膚を縫った糸が取れてしまったり、感染のリスクが上がります。そのため、傷口を気にする子にはエリザベスカラーや術後服を提案することがあります。エリザベスカラーは首のところに装着し、傷を舐められないようにします。猫の鼻先が出ないものを選択しましょう。オスはエリザベスカラーの方がよいでしょう。術後着は服を着せて傷を舐めないようにします。カラーと違ってうっとうしさがなくないのが特徴です。背中にマジックテープがついているものは着脱が簡単にできます。

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傷口ケアと異常時の対処法

ほとんどの場合、術後の傷口のケアを自宅ですることはありません。ただし、抜糸や術後の状態確認のために、診察を受ける必要はあります。動物病院によっても受診のタイミングが異なるため、術後に確認しましょう。家に帰ってから、傷口を気にしたり舐め続ける場合や、傷口が開いたり、出血がある場合はすぐ動物病院を受診しましょう。また、傷口が感染した場合は、傷口から膿などが出てきます。その場合もすぐ受診しましょう。

術後は食欲が落ちることがありますが、2日経っても食欲や元気がない、嘔吐するなどの症状がある場合も受診が必要です。

食事制限や運動制限の具体例

手術した日は麻酔の影響があるため絶飲絶食になりますが、次の日からは通常通りの食事になります。食欲がない場合もあるため、ウェットフードなどを与えてもよいでしょう。不妊手術をすると、代謝やホルモンの変化により太りやすくなります。そのため、避妊・去勢後用のフードに変更する必要があります。

手術後、獣医師から指示があるまでは激しい運動は控える必要があります。手術部位からの出血や傷が開く可能性があるからです。同居猫がいて、一緒に運動会をしてしまうようであれば、しばらくキャットケージなどで過ごさせるのもよいでしょう。

不妊手術を受けるための事前準備

不妊手術を受けるための事前準備

獣医師への相談で確認すべき項目

手術を受けるに当たって、必ず食事の制限があります。胃の中に食事が入っている場合、麻酔の影響で嘔吐が起こると、窒息や誤嚥性肺炎につながります。そのため、手術の日は術後も含め絶飲食になります。手術前の食事制限が何時からになるかは必ず確認しましょう。

術後の再診日やそれまでに異常があったときの対応方法についても確認が必要です。

雌猫の発情中の手術については、獣医師によっても考えが異なります。そのため、万が一発情徴候が見られた場合はどうするかを事前に確認しておきましょう。

不妊手術が猫の健康にもたらす長期的な影響

不妊手術を行うと、代謝やホルモンの変化により、確実に太ります。猫は運動をしてもあまり痩せないため、食事量をコントロールすることで、不妊手術後の肥満を予防しなければなりません。手術後は避妊・去勢後用のフードに変更しましょう。それでも太っていく子が多く、食事量を減らしたりカロリーを制限したフードに変更する必要があります。

不妊手術によって肥満になると、糖尿病や尿石症のリスクが上がると言われています。体重管理はとても重要です。

猫の飼い主が知るべき倫理的な視点

不妊手術を受けさせない方の多くが、「健康な体にメスを入れるべきではない」「自然にさせておく方がよい」と考えています。麻酔や手術は100%安全とは言えないため、不安に思われる方の気持ちはわかります。しかし、発情中の猫のストレスはかなり強く、相手を求めて脱走してしまうほど衝動が強くなります。その脱走で妊娠した場合、2か月後には子猫が生まれ、子猫が離乳すると妊娠可能になり、どんどん猫が増えていきます。猫は兄弟や親子でも妊娠するため、自宅内でも猫が増えていくことになります。

多頭飼育崩壊という言葉を耳にしたことがあるかもしれませんが、ほとんどが不妊手術を受けず自宅で繁殖してしまったことで起こっています。1匹の猫を責任持って飼育するためにも、不妊手術をして大切に飼いましょう。

まとめ

まとめ

不妊手術は全身麻酔下で行うため、必ずリスクが伴います。この手術にはメリットもありますが、デメリットもあります。しかし、猫の健康を守るためのメリットが多い手術です。不明な点は動物病院でしっかり話を聞き、納得した上で手術を受けましょう。


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