日々の診療の中で、私たちが最も緊張感を持って対応する救急疾患の一つが、猫の「尿管閉塞(にょうかんへいそく)」です。尿管は腎臓で作られた尿を膀胱に運ぶ管ですが、そこに結石などが詰まってしまうと尿管閉塞になります。
膀胱の中にできる膀胱結石と比べると、尿管閉塞は緊急性が高く、発見が1日遅れるだけで急性腎不全や尿毒症へと進行し、命に関わるケースも多く見られます。
今回は、実際の臨床現場で私が経験してきたケースを踏まえ、猫の尿管閉塞で見逃してはいけない初期症状と、命を救うための最新の治療法(SUBシステムなど)について詳しく解説します。
猫の「尿管閉塞」の原因と結石が詰まるメカニズム

尿管に「シュウ酸カルシウム結石」が詰まることが多い
尿管閉塞の最も多い原因は、腎臓で作られた「結石」が尿管に流れ込み、途中で詰まってしまうことです。その他、腎臓からの出血による血液成分などでも閉塞することがあります。
猫の結石にはいくつか種類がありますが、尿管に詰まるのは、食事療法では溶かすことができない「シュウ酸カルシウム結石」であることが非常に多いです。その理由として、現在流通している猫のフードには、猫の結石の原因となるストルバイトを溶かすように、尿のpHを酸性に保つように設計されているものがあります。尿を酸性に傾けると、逆にシュウ酸カルシウム結晶が形成されやすくなるため、尿管結石はシュウ酸カルシウム結石が多くなったと考えられています。
尿管結石の治療に対する研究結果では、食事や内科治療での改善は約10%程度とされており、尿管閉塞のほとんどが外科的な対応が必要になることがわかります。
なぜ詰まると危険なのか?
猫の尿管はわずか0.4mm程度の細さで、シャープペンシルの芯をイメージするとかなり細いことが想像できると思います。結石が尿管に詰まると、腎臓から膀胱に尿が流れず、腎臓に逆流してしまい、腎臓がパンパンに腫れ上がります(水腎症)。水腎症の状態では、尿を産生する部分が著しく圧迫されてしまい、腎機能の著しい低下を引き起こします(急性腎障害)。それにより、腎臓体内の老廃物(毒素)が排出できなくなるため、短時間で尿毒症へと進行します。急性腎障害や尿毒症は非常に危険で、緊急的に対応しないと命に関わります。
【獣医師の臨床経験から】おしっこのサインが出ないことも!尿管閉塞の危険なサイン

尿の色・量が変わる、トイレに何度も行く
尿管閉塞の場合、尿は作られていても膀胱に運ばれないため、尿量が異常に減ったり、トイレに何度も行くけど出ないことがあります。また、結石で尿管から出血している場合、血尿に変わることもあります。尿管は左右1本ずつあるため、片方の尿管が閉塞している場合、通常通り尿が出ることもあるため、おしっこの異常やトイレの頻度が変わらなくても尿管閉塞をしていたケースはよく見られます。この場合、画像診断でないと尿管閉塞は診断ができません。
突然の「嘔吐」と「ぐったりして隠れる」
尿管閉塞の場合、急速に急性腎障害となり、尿毒症の状態まで進行します。その状態になると、尿毒素により強烈な吐き気に襲われ、胃液や泡を何度も嘔吐します。おしっこの異常で気づくよりも、「何度も嘔吐してぐったりしている」と訴えて来院されるケースの方が圧倒的に多いと思います。
「ただの毛玉吐きかな?」と様子を見ているうちに、部屋の隅やベッドの下に隠れてぐったりして動かなくなります。腎臓が尿で大きくなってしまうため、腹痛が出ることもあります。猫は痛みを隠すため、普段入らない場所に身を隠してぐったりしていることもあります。ここまで症状が進んでいる場合は、夜間でも救急病院へ走ってください。
「何度もトイレに行く=便秘」と思い込まないで!
臨床現場で非常に多いのが、「猫がトイレで何度もいきんでいる。お腹を触ると怒るから、ひどい便秘だと思って来院した」というケースです。来院時の触診により、腎臓が大きく触知できているのに膀胱は正常サイズということが多く、もちろん便が溜まっていません。
しかし、エコー検査やレントゲン検査をすると尿管が閉塞し腎臓が大きくなっていたり、レントゲンで結石が発見されることが多々あります。「トイレに何度も行くから便秘」ではなく、命に関わる泌尿器の緊急事態ということを忘れないでください。
診断から手術へ。命を救う「SUBシステム」と内科治療の限界

エコー検査での迅速な診断が命を分ける
病院では、血液検査で腎臓の数値(BUNやクレアチニン)の異常を確認すると同時に、超音波(エコー)検査で「腎臓が腫れていないか」「尿管のどこに結石があるか」を瞬時に見極めます。
内科治療のリスクと限界
内科治療で改善する可能性もありますが、前述したとおり約10%程度にとどまります。内科治療が適応になるのは、尿管の閉塞が不完全であり尿量が確保されている場合や、腎臓の拡張が軽度の状態の場合、腎機能が安定しており全身状態も安定している場合は、点滴を行って短期間の経過を見ることがあります。その間に、閉塞部分の評価や治療法を決定します。そのため、内科治療では完全に閉塞を治すことはできず、むしろ悪化させてしまうこともあります。
尿管閉塞の治療法の種類と最新の治療法「SUB(サブ)システム設置術」
尿管閉塞の治療のほとんどが外科治療がメインとなります。尿管閉塞の外科治療は「尿管切開術」「尿管膀胱新吻合術」「尿管ステント設置術」「SUBシステム(皮下尿管バイパス)設置術」が検討されます。
尿管切開術は尿管を切開し、結石などを取り出します。尿管膀胱新吻合術は、狭窄した尿管を切除し膀胱につなぎなおします。尿管ステント設置術は尿管にステントと呼ばれる管を設置し、尿管を広げる術式です。
現在最新の治療として開発されたのが、SUBシステム設置術です。これは腎臓と膀胱をチューブでつなぎ、閉塞した尿路を迂回し尿を流します。従来の治療法では尿管が術後に狭くなったり(狭窄)、尿路感染症や設置したステントがずれてしまうなどの合併症が発生することがありました。SUBシステム設置術は尿管の閉塞がひどかったり、何か所も閉塞している場合でも尿量の確保が可能となります。また、尿管を通さないため、再閉塞の危険性もなくなり、長期的に管理することができます。これにより、多くの命が救われるようになりました。しかし、チューブの閉塞を防ぐために、定期的にチューブの洗浄が必要になるため、生涯に渡りケアが必要になります。
また、このSUBシステムはすべての獣医師が設置できるわけではありません。やはり経験やトレーニングが必要であるため、SUBシステムが設置できる設備の整った動物病院での手術がほとんどになります。筆者自身もSUBシステムの設置は行っておらず、2次病院に依頼をしております。すぐに手術ができない場合、「腎瘻チューブ」というチューブを腎臓に皮膚の上から挿入し、一時的に体外に尿を排出させ、2次病院での手術まで管理することもあります。
外科治療によって尿が膀胱に送られるようになっても、一度傷ついた腎臓は回復しません。残された腎機能の維持のために療法食への変更や皮下点滴での通院が必要になることもあります。
尿管結石を予防するために飼い主ができること

何より大切な「水分補給」
結石を防ぐ最大の予防法は、尿の濃度を薄めることです。水飲み場を家の中に複数箇所設置する、猫が好む「ぬるま湯」にする、食事にウェットフードを取り入れるなど、愛猫が自然と水分を摂れる工夫が重要です。
また、療法食でない市販の下部尿路疾患対策用フードは、ストルバイト対策として尿のpHを酸性に傾けるように作られています。それによりシュウ酸カルシウム結石が増えていると考えられています。結石がないのであれば、下部尿路疾患対策用のフードをあえて使用しなくてもよいと思われます。
トイレチェックの習慣化
トイレを片付ける際、「尿の塊(猫砂)の大きさや個数」を毎日確認してください。「いつもより塊が小さい」「トイレに行く回数が増えた」といった些細な変化に気づくことが、病気の早期発見に繋がります。
まとめ:猫の「尿管閉塞」は時間との勝負!異変を感じたら即受診を

猫の尿管閉塞は、「明日まで様子を見よう」という判断が命取りになる、極めて恐ろしい救急疾患です。臨床現場では、「便秘だと思っていた」「ただの嘔吐だと思っていた」「おしっこが出ているから、おしっこの病気じゃないと思っていた」と来院されるケースが多く、来院された時点ではすでに急性腎障害が進行し、危険な状態に陥っているケースが少なくありません。
「オシッコのポーズをするのに出ない」「吐いている」「ぐったりしている」という症状があれば、一刻も早く動物病院を受診してください。
毎日のトイレ掃除は、愛猫からのお便り(健康のバロメーター)の確認です。日頃からオシッコの量や回数を把握し、愛猫の小さなSOSを決して見逃さないようにしましょう。






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