【2024年版】猫伝染性腹膜炎(FIP)の治療法ガイド:最新情報と治療の選択肢

【2024年版】猫伝染性腹膜炎(FIP)の治療法ガイド:最新情報と治療の選択肢

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫コロナウイルスが原因で発症しますが、猫にとって致死的な病気です。近年まで効果的な治療法がありませんでしたが、新薬の開発により予後が劇的に変わってきました。

今回は、FIPについて最新情報を解説します。

猫伝染性腹膜炎(FIP)とは?

猫伝染性腹膜炎(FIP)とは?

猫伝染性腹膜炎(FIP)の基本的な情報と原因

FIPは猫コロナウイルスが原因で発症する、猫にとって致死的な病気です。猫コロナウイルスは弱毒で、猫の間では広く存在しています。便にウイルスが排泄され、ウイルスが口から入って感染していきます。FIPウイルスは、猫コロナウイルスが強毒化したもので、猫コロナウイルスに感染した猫の体内で突然変異を起こして、FIPウイルスになると考えられています。そのため、猫コロナウイルスにかかっていると、FIPを発症する可能性があります。

ただ、FIPは感染している猫の免疫と複雑に関係しているため、猫コロナウイルスにかかっているから、100%FIPを発症するということではありません。

しかしながら、FIPは感染しないと考えられていましたが、2011年に台湾のシェルターで集団感染があり、猫同士で感染した可能性があることが示唆されました。また、2023年にキプロス島でノラ猫でのFIP集団感染が起こり、多くの猫が死亡しました。このFIPウイルスは、犬のコロナウイルスの遺伝子が組み換えられたウイルスだったため、FIPウイルスに突然変異することなく、爆発的に感染したと考えられています。

FIPは比較的若齢(2歳未満)に多く、純血種のオスに多い傾向があります。また、多頭飼育で発生しやすいのも特徴です。

猫伝染性腹膜炎(FIP)の症状の種類

猫伝染性腹膜炎(FIP)の症状の種類

FIPの病型は滲出型(ウェットタイプFIP)と非滲出型(ドライタイプFIP)の2つに大別されます。滲出型の方が多く、80%程が滲出型です。

共通する症状は、元気消失、体重減少、発熱、毛並みが悪いなどです。ウェットタイプでは腹水や胸水が溜まり、呼吸困難やお腹がパンパンに張ってきます。

ドライタイプは体内に肉芽腫という塊を作るのが特徴です。目に症状が現れることもあり、目が曇っていたり瞳孔のサイズが違うこともあります。神経に病変ができることがあり、麻痺や発作などの症状が現れます。

これらのタイプはどちらかの場合もありますが、両方の症状が現れたり、時間差で二つのタイプの症状が現れることもあります。

猫伝染性腹膜炎(FIP)の診断方法

国際猫医学会や欧州猫病学諮問委員会が作成した診断ガイドラインが、現在最新のガイドラインです。

1.問診 品種、年齢、性別、飼育環境、症状からFIPを疑う情報を収集します。
2.検査 身体検査、画像診断、血液検査からFIPを疑う所見を探します。腹水や胸水が貯留している場合は、その性状を調べます。
3.特殊検査 病理組織学的検査、猫コロナウイルス遺伝子検査や抗原検査などから、ウイルスの検出を行います。
4.診断 1~3で得られた情報を総合的に判断し、他の病気とも比較してFIPの診断を行います。

FIPの診断は非常に複雑で進行も早いため、獣医師でも迷う症例が多くあります。

猫伝染性腹膜炎(FIP)治療の現状と最新情報

猫伝染性腹膜炎(FIP)治療の現状と最新情報

従来の治療法とその限界

FIPは感染した猫の免疫システムと複雑に関係し、免疫反応が暴走することで様々な症状が現れます。そのため、従来の治療法では暴走した免疫反応を抑える治療が試みられていました。ステロイド剤や免疫抑制剤、インターフェロン療法などが行われていましたが、どれも効果を期待できるものではありませんでした。

新しい治療法(抗ウイルス薬など)の紹介

近年、世界的に流行した新型コロナウイルス感染症やエボラウイルス感染症の治療薬の開発が進み、それらの薬を用いたFIPの治療法が考案され、FIPの症状が消失した寛解の状態になった症例が報告されました。

現在、レムデシビルやGS-441524といった抗ウイルス薬を用いた治療法が、国際猫医学会から発表されています。そして、その治療プロトコールを基に、数多くのFIP症例が治療されています。治療プロトコールでは、84日間投与を行う治療法が考案されています。

  抗ウイルス薬(レムデシビル、GS-441524) これらの薬剤は、エボラウイルス感染症の治療薬として開発が進められてきましたが、コロナウイルスに対して高い抗ウイルス活性が示されています。
モルヌピラビル この薬剤は、新型コロナウイルス感染症の治療薬として開発され、日本では人の新型コロナウイルス感染症の治療薬として承認されています。

    新薬は数年前から個人輸入にて購入できるものがあるようです(例:ムティアン)。しかしながら、新薬をコピーしたものであるため、効果に差があったり、まったく薬効がないものもあります。費用は高額で、自己判断で個人輸入するのはリスクが高いと思われます。

    新薬はすべての動物病院で取り扱っているわけではありません。獣医師が海外から輸入しているため、治療できる動物病院を探す必要があります。

    治療の成功率と副作用

    新薬を用いた治療の奏効率は、85%前後とされています。また、寛解してから再発するのは10%未満と考えられています。

    主な副作用としては、肝酵素の上昇が共通で見られています。注射薬であるレムデシビルを皮下に注射すると痛みが出ることもわかっています。モルヌピラビルでは、白血球が減少することがわかっています。また、遺伝毒性が指摘されており、その影響は現段階ではわかっていません。

    猫伝染性腹膜炎(FIP)治療の選択肢と費用

    猫伝染性腹膜炎(FIP)治療の選択肢と費用

    FIPの治療費は、薬剤費が100万と言われた時もありましたが、今現在は少し安くなってきました。しかしながら、輸入薬を使用していること、ペット保険では未承認薬は対象外となることから、まだまだ高額な治療費となります。

    治療薬は状態や体重から厳密に調整されるため、定期的に診察や検査を受ける必要があります。ほとんどの場合、治療開始時は状態が悪く、入院での治療が必要になるため、治療終了までに数十万円の治療費がかかります。

    モルヌピラビルは他の2剤と比べるとやや安価になります。そのため、経済的な理由からモルヌピラビルを選択することもあります。しかし、モルヌピラビルを用いた治療プロトコールは、報告はあるものの不確実な部分も多いのも事実です。

    治療中のケアと予後の管理

    治療中のケアと予後の管理

    家庭でできるサポートケア

    FIP治療中は、食事が摂れないなどのトラブルもあります。ウェットフードを使って少しずつ食べさせることも必要です。苦しくて食事ができない場合は、入院して管理するのが望ましいですが、自宅で看る場合は酸素室をレンタルしたり、鼻から管を入れて液状フードを注入する方法で食事を撮らせることもあります。

    ストレスはFIPの悪化要因とも考えられています。多頭飼育をしている場合、他の猫が発症しないとも限らないため、隔離をしてストレスの少ない生活を送りましょう。糞便中にコロナウイルスは排泄されるため、トイレを片づけた後は手洗いをしっかり行いましょう。

    予後の管理と再発リスクへの備え

    新薬以外の治療の場合、残念ながら数週間で亡くなってしまいます。また、新薬での治療でも、治療に反応しにくいことがあります。新薬での治療は2021年から始まったものであるため、予後についてのデータが多くありません。

    治療をしても再発することがわかっています。再発は、治療終了から短期間のうちに再発することが多いようです。治療終了後も、獣医師から指示された通りに通院や検査が必要です。元気や食欲がなくなってきたら、すぐ動物病院に連絡しましょう。

    猫伝染性腹膜炎(FIP)予防と早期発見の重要性

    猫伝染性腹膜炎(FIP)予防と早期発見の重要性

    感染予防策と日常的なケア

    FIPのワクチンは日本にはありません。アメリカで開発されていますが、その有効性は疑問視されています。

    ワクチンでの予防ができないため、現在コロナウイルスにかかっていないのであれば、コロナウイルスにかからないような感染予防対策が必要になります。また、猫コロナウイルスにかかっていても、必ずしもFIPを発症するわけではないので、発症させないようにしましょう。

    • コロナウイルスにかかっているか調べる
    • 糞便は早く処分する
    • 多頭飼育をしない
    • 猫エイズや猫白血病にかかっていないか調べる
    • ストレスを与えない

      早期発見のために

      FIPは進行が非常に早いため、診断を待っている間に亡くなってしまうことも少なくありません。FIPは子猫に多いため、少しでも食欲や元気がなければすぐに診察を受けるようにしましょう。

      まとめ

      まとめ

      新薬の登場により、この数年でFIPの治療法は劇的に変わりました。しかし、費用がかなり高額で、ガイドラインにある薬剤を使用している病院は限られています。

      FIPが疑われる場合、ご自身で病院を探したり、かかりつけ医に紹介してもらいましょう。そして、多頭飼育ではなく、1匹を大切に飼うのもFIP予防につながります。


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