道端や自宅近くで「痩せた猫」「怪我をしている猫」を見つけ、どうすればいいのか迷った経験はありませんか?
助けたい気持ちは自然なものですが、状況によって正しい対応は大きく異なります。
本記事では、野良猫を見つけたときに取るべき行動、保護の判断基準、地域猫との関わり方を獣医師が分かりやすく解説します。
野良猫を見つけたら、まず状況を確認しよう

安全な場所かどうかを確認
野良猫がいる場所がどんな場所であるかを確認しましょう。交通量の多い道路の真ん中や転落の危険がある場所であれば、移動させる必要があります。移動させる場合は一人では行わず、周りの人に手伝ってもらいましょう。猫の保護を優先して、人が事故に巻き込まれるケースがあります。道路であれば、車の誘導をする人がいるとよいでしょう。崖などの危険な地形であれば、網などで捕獲・移動することを検討しましょう。
怪我・衰弱・子猫など緊急性が高いケース
明らかな怪我や自分で動けないレベルの衰弱、子猫などは緊急性が高いケースが多くあります。まず、保護する人がどこまで介入できるか(医療費や回復後のことまで)をよく考え、介入できるのであれば早めに保護しましょう。
子猫は親猫が近くにいることがあるため、元気そうであれば半日ほど様子を見ることも必要です。ぐったりしていたり、親が迎えに来ないのであれば保護が必要になります。
むやみに近づかず、猫のストレスと事故の危険を避けることが大切
野良猫を見つけても、まずは状況をよく観察することが必要です。動ける状況であれば、人が近づくことで逃げてしまい、それによって二次的な事故を誘発してしまうことがあります。また、野良猫は人との接触に慣れていないためパニックになってしまったり、人に攻撃してくることもあります。すぐに保護が必要かを見極め、安全な方法(おやつや捕獲機、網など)で保護しましょう。
明らかに飼い猫の可能性もある(首輪・清潔さ・人馴れ)
野良猫と思っていても、実は外に行く飼い猫ということもあります。首輪をしていたり、栄養状態や毛づやがよかったり、人に馴れている場合は飼い猫の可能性があります。怪我などで保護の必要性がある場合を除いては、様子を見ることも必要です。迷い猫の可能性はあるため、顔写真などを撮り、近所の人や動物病院などに情報提供するのはよいでしょう。
野良猫を保護すべきケースと適切な対応

怪我・病気・衰弱している猫は保護して動物病院へ
怪我・病気・衰弱している場合は早めに保護をして動物病院にかかりましょう。状態によっては入院や手術が必要になるケースがあります。通常、費用は保護した方の負担となりますので、理解した上で受診しましょう。保護猫であっても、費用は高額になります。
当院でも時々見られるトラブルですが、「保護したが自分で飼うつもりはない・引き取らない」「保護しただけだから治療費は支払わない」と言われる方がいらっしゃいます。治療前に治療費の支払いや引き取りのお約束をお願いしていますが、それでも拒否をされることがあり、結局院内に置いて行かれる結果となります。そのような非常識な行動は動物病院にとって迷惑になりますので、保護する前によく考えてから行動しましょう。
子猫の場合(生後日数の見分け方・母猫の有無確認)
子猫の場合、保護してお世話をする必要があります。生後1か月以内であればミルクや排泄のケアが必要になります。それくらいの猫が1匹でいた場合、母猫が食事や飼育場所の移動をしている可能性があります。半日程度様子を見て、それでも取り残されている場合や、側溝、路上などにいる場合は母猫がいないか放棄している可能性が高いので保護の必要があります。生後2か月以内であれば母猫が面倒を見るので、1匹でいても母猫が戻ってくる場合があります。ずっと泣き叫んでいたり、路上にいる場合ははぐれた可能性があるため、保護が必要になります。それ以降の猫であれば、状態によって保護が必要な場合もあります。
子猫の見分け方は以下の通りです。
- 生後0〜1週間:臍の緒が付いており、目や耳は閉じています。
- 生後1〜2週間:臍の緒が取れ、目が開いてきます。
- 生後2〜3週間:目が開き、耳も立ってきます。
- 生後3〜4週間:歯が生えてきて、離乳食を食べ始めます。トイレを覚えるようになります。少しずつ動きが出てきます。目の色はキトンブルーと呼ばれる青色をしています。
- 生後1ヶ月:目が青色(キトンブルー)から大人の色に変化します。動きも活発になり、乳歯も生えそろいます。食事も離乳食からふやかしたドライフードに移行していきます。体重は500gほどです。
- 生後2ヶ月:歯がしっかり生えそろい、運動能力もかなり発達してきます。ドライフードも食べられるようになります。体重は1kgほどです。
交通量の多い場所・危険区域にいる場合
交通量が多い場所や崖などや工場などの危険な場所にいる場合は、猫が事故に巻き込まれる可能性があるため、保護してその場所から移動させる必要があります。保護するときに、人が事故に巻き込まれないように注意しなくてはなりません。また、私有地にいる場合は不法侵入にならないように所有者に許可を得てから保護しましょう。
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保護するときのポイント(タオル・洗濯ネットの使用)
野良猫を保護するとき、よほどぐったりしていなければ人に警戒してしまったり興奮することがあります。保護するとき素手で行くと大きなケガをするおそれがあるため、タオルや洗濯ネットを使用しましょう。興奮が強い場合は捕獲網や捕獲器を使用するのも良いでしょう。
野良猫を保護しないほうがいいケース

地域でTNR・地域猫活動が行われている場合
野良猫の中には、地域猫として地域の人たちに見守られている猫がいます。そのような猫は不妊手術が行われており、耳カットがされています。もしそのような猫を見かけたのであれば、保護をせず地域猫活動をしている団体などに相談しましょう。
人に慣れている外猫=必ずしも「捨て猫」ではない
飼い猫であれば完全室内飼育が望ましいのですが、外に出ている猫もいます。人馴れしている猫の場合、飼い猫であるケースがあり、ただ外出しているだけかもしれません。首輪をしていたり、栄養状態がよく毛艶がいい場合、飼い猫かもしれません。飼い猫であれば家に帰って行きます。そのような猫を保護すると、元々の飼い主さんが猫を探してしまう可能性があります。捨て猫や迷い猫の場合、家に帰れないため彷徨っており、体が汚れていたります。保護する際は、近所や動物病院に情報提供した方が、後々トラブルにならないと思います。
“かわいそう”だけで介入すると猫にも人にも負担がかかることがある
野良猫は外での生活をしているため、人との接触に馴れていません。大きな負担になることもあります。また保護しようとしたが猫が逃げてしまい、猫が車にはねられてしまう悲しいケースも存在します。
保護した場合の治療費は、ほとんどの場合は保護主負担となります。事故で手術が必要になった場合や長期的な入院が必要になった場合、数十万円の請求となります。退院した後は保護主さんが面倒を見るか譲渡先を探すことになり、その間のお世話は保護主さんが行います。もし障害が残ったり治療を続けなけらばならなかったりすると、保護主さんの負担は大きくなります。保護した以上、保護主さんの責任となるため、金銭的にも精神的にも最後まで面倒を見る覚悟を持って保護しましょう。「かわいそう」だけで保護してはいけません。
地域猫活動とは?正しい関わり方

TNR(捕獲・不妊手術・元の場所へ戻す)
TNRとは、捕獲(Trap)、不妊手術(Neuter)、元の場所に戻す(Return)の頭文字を取ったものであり、野良猫の繁殖を抑え、人との共存を目指す活動です。野良猫が増えるとゴミを漁ったり、おしっこに悩まされたりなど、地域とのトラブルに繋がります。そういったことを少なくするためにも、野良猫の繁殖をおさえて、「一世一代の命を地域で見守る」のがTNR活動の目的です。
耳先カット=手術済みのしるし
TNRで不妊手術を行った後は、手術済みであることがわかるように左右どちらかの耳先をV字にカットします。その形が桜の花びらに似ていることから、TNRされた猫を「さくら猫」と呼んでいます。耳がカットされた猫は手術済みの地域猫だということが、見るだけでもわかる仕組みです。
ボランティアや自治体の支援制度
地域猫活動を個人でやっている人もいますが、費用や時間がかかるため、地域猫活動を団体で行っていることがあります。地域猫活動には自治体やほど団体の支援がある場合があり、手術費用の助成金制度などがあります。野良猫の不妊手術のみを行っている動物病院もあります。
地域猫への適切な接し方(餌やりルール・見守り)
地域猫には、基本的には見守るスタンスが必要です。餌やりなどは地域猫活動を行っている人たちが行うことが多く、むやみやたらにあげてしまうとトラブルになることがあります。また、餌をあげることで他の猫が集まってきてしまい、トラブルになることがあります。なので、そっと見守り、何かあれば活動している方に情報提供しましょう。
野良猫を保護した後に必要なこと

動物病院での健康チェック
野良猫を保護したら、まず動物病院で健康状態を確認してもらいましょう。なかには、妊娠していたことが発覚するケースもあります。ノミやダニなどは人にも寄生し、皮膚トラブルを起こすため、動物病院で駆除剤を付けてもらうことも必要です。
もし怪我や病気があるのであれば、その治療が最優先になります。そうでなければ、そのまま自宅で様子を見てもらいます。
感染症検査(猫エイズ・白血病など)
野良猫はなんらかの感染症を持っている可能性があります。内部寄生虫がいたり、猫風邪をひいていることはよく見られます。猫エイズや猫白血病といった、他の猫に感染する可能性がある感染症にかかっていることもあり、自宅に猫がいる場合は検査が必要になります。ただし、野良猫の検査は非常に難しく、鎮静剤が必要になる場合があります。
一時預かりの環境づくり
野良猫を保護したあと、自宅で飼育する場合でも一時預かりにする場合でも準備が必要です。一時預かりの場合、期間にもよりますが、3段ケージなどで預かるのがよいでしょう。人慣れしていない野良猫は脱走したり、人を攻撃することがあるため、ケージにタオルをかけて落ち着けるようにします。ケージ内にトイレ、餌皿、水入れを用意し、そこで生活をします。自宅に他に猫がいるのであれば、感染予防や猫同士のストレスを与えないためにも、なるべく接触しないように隔離しましょう。
一時預かりが1か月以上長くなるようであれば、ケージから少しずつ出してあげて、室内で生活できるようにするのもよいでしょう。脱走や隙間に入り込まなせない対策は必要です。
里親探しの方法(SNS・地域団体・譲渡会)
保護した野良猫を飼育できないのであれば、早い段階から里親を探す必要があります。SNSで発信したり、保護団体に相談しましょう。もし譲渡会を開催予定がある団体があれば、そこに参加させてもらえるかを確認してもよいでしょう。それまでに治療を終了したり、人馴れさせておくことは必要です。
絶対に他の家や保護団体、猫カフェ、動物病院の玄関に、そっと置いていくことはやめましょう。
まとめ|野良猫と出会ったら、猫にも人にも優しい行動を

野良猫と出会った場合、野良猫の状況や周りの状況で対応が変わります。怪我をしていたりぐったりしていたり、ミルクが必要な子猫の場合は保護が望まれます。地域で管理している地域猫の場合は、一度地域猫活動をしている人に確かめてから保護しましょう。
保護には責任と治療費がかかってきます。その猫の一生を支えられるかよく考えてから保護しましょう。






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