はじめましての方もはじめましてじゃない方もこんにちは。
猫狂でミニマリストの阪口ゆうこです。
我が家には猫が2匹いる。
白猫と黒猫。
毛色こそ陰陽のように真逆だが、出身はどちらも生粋の野良。
今は同じ屋根の下で、気まぐれに、奔放に、そして我が物顔で暮らしている。
もう野生には戻れないくらい、だらしない。
レッツゴークリニック
今日は、いきつけの動物クリニックに行く日だった。
年に一度のワクチン接種である。
忘れたくても丁寧に「もうすぐワクチンの時期ですよ」と、ニコニコ笑顔のかわいい猫ちゃんやワンちゃんが描かれたハガキが届き、否応なく思い出させてくる。
しかし、そんなかわいいイラストを見ながら…「今年も戦の時期がきたか」と思った。
捕獲という名の儀式
病院に猫たちを連れ行くには、当たり前だが捕まえなければならない。
まずは白猫。
物静かで滅多に鳴かない、慎ましやかな性格。
見た目から気品と自尊心を備えていて、我が家ではお姫様扱いされている。
その分、勘も鋭い。
キャリーを出す気配だけで、「今日が平和な日ではない」と察知し、瞬時に潜伏モードに入る。
テーブルの下、キャットタワーのいちばん上、棚の中の奥の方。

捕まえようとこちらが気配を消す前に、白猫のほうが音もなく姿を消している。
一枚も二枚も上手だ。
ちゅ〜るを見せても、もはや効かない。
なぜなのか、いつもスリスリしてくるのに、第六感が鋭すぎる。
こちらには「信頼を失った飼い主」というラベルが貼られているようだ。
最終的には、家具の下に腕を突っ込んで、這いつくばっての捕獲劇。
朝から全身運動で顔面汗だく。
白猫にはねっとりと睨まれる。
黒猫はキャリーに即入室するが
対して黒猫。
好奇心と勢いで生きているような存在で、キャリーを広げた途端、自ら入っていく。

「お出かけですか? はい、参りましょう!はいレッツゴー」とでも言いたげに、ぴょこんと入り、そこで寝転がってスタンバイ完了。
その素直さに思わず「なんて手がかからない子なんだ」と感動しそうになるが、それは罠である。

車に乗った瞬間から、豹変。
「出せ」
「開けろ」
「なぜ閉じる」
「聞いてない」
といった抗議をすべて鳴き声で表現しはじめる。
最初はか細い「にゃー」から始まり、最終的にはこちらが誘拐しているかのように激しく、どこか情熱的に鳴く。
運転する私をじっと見つめて「この世の終わり」みたいな声を出す。
それでも車は進む。
無慈悲に。
動物病院という名の魔窟
ようやく到着したクリニックでは、すでにこちらのHPは底をついている。
が、ここからが本番である。
受付で名前を告げると、獣医さんが笑顔で迎えてくれる。

「おかかちゃん(黒)るるちゃん(白)ですね。ごはん食べてますか?お家では元気ですか」
「ええ、とっても元気です(疲労困憊)」
白猫はキャリーの奥にじっと籠もり、気配を完全に消している。
黒猫は逆に、そわそわしながら脱走のタイミングをうかがっている。
まずは白猫。
キャリーから出されると、全身に緊張が走り、呼吸すら忘れているかのように固まる。
お尻で測る体温測定と、ワクチンの注射の瞬間だけ、わずかに瞬き「いったーい…
」といった感じ。
終了後も一切の交流を絶ち、気配を消したまんまキャリーへ戻っていった。
次に黒猫。
診察台に乗った瞬間、「さあ動きますよ」とばかりにフル可動。
先生のペンに興味を持ちスリスリしたかと思えば、ペンのお尻を噛んでガジガジ。
他の診察台にいる、ワンちゃんや猫ちゃんが気になって気になって、右向いて左向いて、おさえていないと台から降りてどっか走って行っちゃいそう。
挙動不審の極み。
黒猫に関しては、挙動不審の真っ只中で、どさくさに近い形で体温計も注射もクリア。
ある意味優等生だった。
先生は笑いながら言う。
「おかかちゃんとるるちゃん、本当に性格真逆ですね。笑」
ええ、毎日楽しませてもらってます…。
帰宅後の静寂という名の冷戦
無事に帰宅。
キャリーを開けると、白猫はすぐに飛び出て部屋の隅へ逃げ込み、以後一切の接触を拒否。
黒猫はしばらく玄関のほうを見つめてから、窓辺へ。
背中で語るその姿からは、「せっかくお出かけしたんだから、もうちょっと自由にさせてほしかった」という雰囲気がにじみ出ている。
ごはんを与えるも、白猫は「また捕まえる?」といった疑いの目をして、私がその場を離れるまでごはんに手をつけなかった。
完全なる無言の仕返しである。

黒猫に関しては、次のお出掛けが早くやってくるよう、願掛けのようにむさぼる。
愛ゆえにまた来年もやる
猫が2匹いるだけで、病院通いはもはやイベントであり、出荷作業であり、精神修行である。
でも、こうして健康を守っているんだと思えば、報われる気もする。
年に一度のこの行事は、ある意味で、私にとっての愛情確認日なのかもしれない。
言葉ではなく、キャリーに詰めて運び、注射されて帰るという無言の行脚。
それが、私なりの「元気でいてね」のかたちだ。
来年もまた、白猫は消え、黒猫は鳴き叫ぶのだろう。
それでも構わない。
この2匹がのびのびと暮らしてくれていれば、それが一番だ。

そしてきっと私は、またキャリーを磨いて、出荷準備を始めるのだ。
愛と、根性と、ちょっとした覚悟をもって。
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