5月に入り、暑さを感じる日が続くようになりました。中には30℃近くまで気温が上がった日もあります。今年の夏も、酷暑になることが予想されます。猫も人間と同様、気温が高くなると熱中症になるリスクが上昇します。今回は熱中症について詳しく解説します。
猫は暑さに強い?弱い?

猫の平熱と人間との違い
人間の平熱は、個人差がありますが36.0~37.0℃ほどです。37.0℃を超えると、発熱と判断されることが一般的です。では、猫はどうでしょうか?
猫の平熱は38.0~39.0℃と、人よりも高めです。猫に触れると「なんとなく暖かい」と感じるのは、この平熱の高さが理由です。
猫も暑さは苦手です
猫の祖先はリビアヤマネコといい、砂漠で生活していましたが、暑さに強い動物とは言えません。人間は暑さを感じると、全身から汗を出して体温を下げようとします。しかし、猫は肉球からしか発汗できません。また、全身に毛が密に生えているため、体に熱がこもりやすい状態になります。そのため、猫は暑さに弱い動物と言えるでしょう。
室内飼いでも油断できない理由
屋外で過ごす猫の場合、夏の暑い時期は涼しい場所を求めて移動し、暑さから逃れようとします。室内の場合は日が直接当たりにくくはなっていますが、決して安全とは言えません。空調の効いていない室内は30℃以上になることもあります。
熱中症は室温が28℃を超えるとリスクが上がると考えられています。実は熱中症は5月ごろから発生が見られますが、まだ暑くないと思いエアコンを控える家庭が多く、家族が外出している間に室温が急上昇するためです。室内飼育では涼しい場所に逃げることができず、熱中症になってしまうのです。
猫の熱中症と脱水症状に要注意

熱中症の症状
熱中症は命に関わる状態です。いち早く熱中症に気づき、応急処置を行えるかがポイントです。熱中症の症状、軽度・中等度・重度について解説します。
軽度 |
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中等度 |
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重度 |
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症状の重症度が大きくなるほど急ぐ必要があります。軽度であっても様子を見ず、必ず動物病院を受診しましょう。
脱水の見分け方
猫は一度に大量の水を飲むことはできません。そのため、気温が上昇すると発汗量が増え、脱水になる可能性があります。特に子猫や腎臓病のシニア猫は、水分を体に留めることができず、脱水に陥ってしまいます。
脱水を見分けるには背中の皮膚をつまんで離し、皮膚がもとに戻るまでの時間を計測した、皮膚テントテスト(ツルゴールテスト)を行います。皮膚テントテストは、通常2、3秒でもとに戻りますが、6秒以上かかると脱水の可能性があります。それだけで評価するのではなく、全身状態(元気の有無、目の窪み、口の粘膜の乾き具合、意識レベルなど)も評価します。通常、皮膚テントテストが6秒の場合、口の粘膜が乾燥したり、目がくぼむなどの症状が現れる脱水状態となります。7秒を超えるとショック状態に陥ります。
危険なシチュエーション(締め切った部屋・直射日光の当たる窓辺など)
先ほど室内飼育でも熱中症のリスクがあると述べましたが、閉め切ってある部屋や直射日光が当たる部屋は要注意です。特に空調なしで閉め切ってある部屋は、室温が上昇してしまうため、まだ暑い日多くない5月でも熱中症が発生します。
直射日光が当たる場所は外気温よりも上がってしまうことがあります。夏の車の中を想像していただけるとわかりやすいかと思います。室内でも同じようなことが起こります。そのため、気温が28℃を超えるようになったらエアコンなどをかけて外出しましょう。
直射日光が当たる部屋は、カーテンなどで日差しを遮ることも大切です。また、日陰になるような場所を用意することも必要です。逆に、エアコンで冷えすぎてしまうこともあるため、エアコンの風が直接当たらない場所に逃げ場を用意しましょう。
夏の室温とエアコンの上手な使い方
室温の目安は20〜28℃、湿度は50〜60%
猫の室温の目安は20~28℃、湿度は50~60%が適しているとされています。夏場は室温が28℃くらいになるように調整しましょう。もちろん個体差もありますし、子猫やシニア猫の場合、長毛種の場合は猫の体調を見ながら調節することも必要です。また、猫は汗を肉球からしかかけないため、湿度が高すぎると汗をかけなくなり、体の中に熱がこもりやすくなります。湿度は注意が必要です。
直風を避ける工夫(冷風が猫に直接当たらないように)
エアコンがあるから大丈夫というわけではありません。エアコンの風が直接猫の体に当たると、体温が下がってしまいます。特に、体温調整が難しい子猫やシニア猫は、エアコンの風によって体調を崩してしまいます。エアコンが直接当たらないように風の向きを調整したり、風から逃げられるような場所を作ってあげましょう。
長時間の留守番時の設定と注意点
長時間留守番の間に熱中症になってしまい、飼い主さんの帰宅後に発見されたケースはよく見受けられます。いつからそのような状態になっていたかわからず、発見までの時間が長いと状態も悪くなっていることがほとんどです。
5月くらいの暑さだと、エアコンをかけずに出かけたり、扇風機やサーキュレーターだけつけている場合もあるかもしれません。しかし、日中温度が上がってしまうと、室温はしばらく高い温度のままになり、扇風機などは熱い空気を循環させるだけになってしまいます。エアコンは猫の適温に合った温度に設定し、猫の手の届かないところにリモコンを置くようにしましょう。遊んでいるうちにリモコンを踏んで、暖房に切り替わったり電源が切れて熱中症になったケースも存在します。
飲み水も重要です。猫はあまり多くの水を飲みませんが、暑くなると飲水量が増えます。留守番の時は、いつもよりも多めの水を、数か所に分けて置くようにしましょう。脱水も命に関わります。
食欲不振・夏バテ・下痢など夏に増える体調不良

食欲が落ちる猫にできる対策
夏になると暑さから人も猫も食欲が落ちやすくなります。食欲が落ちてしまうと、体力も落ちてしまい、特に子猫やシニア猫、持病のある猫はダメージを受けてしまいます。夏場は体内の水分が奪われやすくなるため、フードや飲み水に一工夫しましょう。夏場は湿度などからフードが痛みやすくなるため、開封したフードは早めに使いきるようにしましょう。食欲がないときはウェットフードを足すと、食欲を刺激するだけでなく水分補給の役割を果たしてくれます。
下痢や嘔吐の原因と対応
暑いと冷たいものを食べたくなりますよね。暑いと思い、猫にも冷たいものをと考える飼い主さんもいるかもしれません。しかし、猫に冷たいものを与えると、嘔吐や下痢などの原因になり得ます。水を冷蔵庫で冷やしてあげている話を聞いたことがありますが、あえてそうする必要はありません。
また、フードが痛んでしまって、嘔吐や下痢の原因になっている可能性があります。特にウェットフードは冷蔵庫で保管してもすぐ痛んでしまいます。開封したらすぐ使い切りましょう。
暑い季節に下痢や嘔吐を繰り返すと、脱水を起こしやすくなります。そのため、下痢や嘔吐が起きていたら、早めに動物病院で治療を受けるようにしましょう。
皮膚トラブル・ノミ・ダニ対策も忘れずに
春から秋にかけて皮膚トラブルが多くなります。特に、ノミやダニなどの外部寄生虫が活動しやすい季節になります。特に気温変化の少ない室内では、ノミやダニが1年中活動できる状況にあるため、年中のノミ・ダニ対策が必要です。湿度が高いとカビによる皮膚トラブルも見受けられるようになります。こまめな掃除、換気、除湿を心がけましょう。
猫が快適に過ごすための夏の飼育環境づくり

風通しの良い場所を確保する
閉め切って空気が循環しない部屋では、エアコンを入れていても効率よく冷えなかったり、逆に冷えすぎてしまうことがあります。そのため、空気が流れるように風通しをよくすると猫も快適に過ごすことができます。サーキュレーターで空気を循環させるのもよいでしょう。
ひんやりグッズや冷感マットの活用
ホームセンターやペットショップには、夏を快適に過ごすためのグッズが販売されています。大理石やアルミニウムなど冷感効果のある素材を使用したマットなどが主流です。万が一猫が口にしてしまっても、害がないものを使用しているのが特徴です。夜間での使用や、エアコンを使うほど暑くない気温での使用をお勧めします。
これらの商品は体感温度を下げるものであるため、室温自体に影響はありません。そのため、これらのグッズだけの使用では熱中症の予防にならないことを忘れないでください。
水の置き場所を複数に&こまめに交換する習慣
猫は水を多く飲まない動物であり、水をあまり自発的に飲まないとされています。そのため、1か所しか水飲み場がないと、そこまで行こうとしません。特に動きづらくなってきたシニア猫や持病のある猫は、すぐ近くに飲み水がないと我慢してしまうのです。夏場だけでなく、水を飲む場所は数カ所に用意しましょう。
また、夏は水が傷みやすくなります。猫の口の中には口腔内細菌がいるため、飲み水の中で細菌が繁殖してしまいます。水は置きっぱなしにはせず、こまめに新鮮な水に交換しましょう。
ウォーターファウンテンを使用している場合、雑菌が繁殖した水が循環してしまう可能性があります。フィルターの交換や洗浄はこまめに行いましょう。
こんなときはすぐに動物病院へ

呼吸が荒く、ぐったりして動かない
熱中症の症状が起きていると考えられます。熱中症はすぐに処置をしないと命に関わります。たとえ軽度でも、時間が経ってから悪化することはよくあります。すぐに動物病院に連絡してください。連絡すると、まず応急処置について指示されると思います。冷却まくらなどで首、わき、鼠径部を冷やしながら病院に向かってください。
水をまったく飲まない・嘔吐・下痢が続く
水をまったく飲まなかったり、嘔吐や下痢が続いてしまうと、脱水の状態に陥ります。重度の脱水では、体内の血液が少なくなりショック状態となってしまいます。そのため、様子を見ずに早めに動物病院を受診するようにしましょう。
猫の熱中症は進行が早いため、迷ったら受診を
猫の熱中症は進行が早く、発見時には重度の熱中症になっていることも少なくありません。また、発見した時には軽度の症状でも、動物病院につく頃には意識消失の重度になっていることもあります。暑い部屋で呼吸が荒いなどの症状でも動物病院を受診しましょう。
室温を下げたら回復することもありますが、内臓へのダメージが水面下で起きていることも多く、少し時間が経ってから状態が悪くなることがあります。熱中症は回復したから様子を見るのではなく、回復しても動物病院にかかるのがベストです。
まとめ

熱中症は少し暑くなってきた5月からが危険なシーズンです。熱中症や脱水は、対処が遅れると命に関わるので、少しでもおかしいと思ったら動物病院を受診しましょう。
気温が上がる時間帯はエアコンなどを活用して、猫が快適に過ごせるようにしましょう。
とても詳しく分かりやすくてためになりました。保存して何度も読み返したいと思います。ありがとうございました。
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