皆さんの愛猫はしっかり水を飲めていますか?猫の祖先は砂漠に住んでいたため、あまり水を飲まない生活をしていました。その名残で、猫の飲水量はあまり多くないと考えられています。今回は猫の水分摂取について解説します。
なぜ猫は水をあまり飲まないのか?

砂漠出身の動物としての飲水行動の特性
猫の祖先はリビアヤマネコと言われており、砂漠で生活していました。砂漠は水が少ないため、水分の多くは食べ物である小動物から吸収し、足りない分を飲み水から補っていました。その少ない飲水量でも体内で効率よく回せるように、尿を濃縮して排出するようになっていったと考えられています。その名残で、自発的に水を飲む習慣がないと考えられています。
ドライフード中心の食生活との関連
日本の猫の主食は、ドライフードが主流となっています。猫のドライフードの水分量は10%以下で、ウェットフードが80%程度であるのに対し、かなり少ないことがわかります。
猫は元々食べ物から水分を吸収しているため、ドライフードを食べる猫は水分量が足りないため、飲水量が増えます。しかし、あまり水を積極的に飲まない猫は脱水傾向になってしまいます。
猫にとって水分不足が与える健康リスク
あまり積極的に水を飲まない猫は脱水傾向になってしまい、泌尿器系のトラブルが起こる可能性があります。例えば尿路結石が代表例です。塩を溶かした水を想像してみてください。塩はある程度の量までは溶けますが、塩の量が多かったり、水の量が多いと塩の結晶が大きくなって溶けなくなってしまいます。これが体内でも起こってしまいます。
体内の水分が少ないと、腎臓や膀胱の尿が濃くなってしまい、結石が生じます。それが尿路結石となり、排尿トラブルを引き起こします。
また、慢性腎臓病の場合、飲水量が少ないと機能が低下している腎臓では尿の処理が間に合わず、体内の水分がどんどん出ていく状況になってしまいます。
猫の水分摂取量の目安とチェック方法

理想的な1日の水分摂取量
猫の理想的な1日の水分摂取量は、体重1kgあたり50〜60mlとされています。例えば、体重4kgの猫であれば、1日あたりの水分摂取量は約240mlほどになります。
ただし、猫はフードからも水分を摂取しているため、ウェットフードなどで水分が摂れていれば、飲み水の摂取量は少なくなることがあります。
飲水量の計測方法
猫の飲水量を測るには、計量カップで測った水を与え、24時間後に残った水を計量するのが一般的です。目盛り付きのウォーターボウルや飲水量を測定するデバイスなどもあります。
脱水の見分け方
猫の脱水の見分け方で一般的なものに、皮膚ツルゴールテストがあります。背中の皮膚を摘んで離し、元に戻るまでの時間で脱水の状態を判断します。通常1秒以内に戻りますが、2秒かかる場合は5〜6%、2〜3秒かかる場合は6〜8%、皮膚が戻らない場合は10〜12%の脱水があると考えられます。
また歯茎を確認することでも脱水の評価ができます。脱水があると、歯茎が乾燥していたりネバつきが見られます。歯茎をそっと指で押してみましょう。すると押した部分が白くなり、少しするとまた元のピンク色に戻ります。通常、2秒以内で元のピンク色に戻りますが、脱水をしていると2秒以上かかります。
普段から皮膚や歯茎の状態を確認しておくと、異常に気付きやすくなります。
猫に水を飲ませる7つの工夫

① 水の器を複数設置する
猫は元々あまり自発的に水を飲もうとしない動物です。そのため、水飲み場まで距離があると、水を飲むのを我慢してしまう傾向があります。特に持病があるシニア猫は、さらに我慢してしまうことがあります。そのため、水の器は複数用意し、猫がよくいる場所に設置するようにしましょう。
② 流れる水(給水ファウンテン)を活用
水の種類に好みがある猫は少なくありません。水道の蛇口から出る水や少し時間をおいた水、流水が好きな猫もいます。流水が好きな猫は給水ファウンテンと言う、水が湧き上がる装置を使うとよく水を飲んでくれます。モーター音がするため、使い始めは警戒することがあるので、通常の水飲み場も用意しておくことが必要です。また、給水ファウンテンについているフィルターを定期的に交換したり、容器を洗浄する必要があります。給水ファウンテンは、溜めてある水を循環させるため、水が汚れやすくなってしまいます。メンテナンスを怠ると、体調不良の原因になってしまいます。
③ 器の材質や形状を変えてみる(ガラス、陶器など)
水飲み容器にこだわりを持っている猫は意外と多いかもしれません。猫の水飲み容器によく使われる素材は、ガラスや陶器、ステンレス、プラスチックのものが主流です。猫が好む容器は、「陶器>ガラス>プラスチック>ステンレス」の順だったという報告もあります。また、器を置く台の高さや器の深さ、直径などでも水の飲み方が変わります。関節炎のあるシニア猫は、器に高さを付けてあげることで水を飲みやすくなります。
④ ウェットフードを取り入れる
ドライフードを主食としている猫が多いと思いますが、通常足りない水分は飲み水で補おうとします。しかし、シニアや持病がある場合、飲み水では足りないことも少なくありません。そんなときには積極的にウェットフードを取り入れましょう。ウェットフードの水分量は約80%と、ドライフードよりも多い水分量になっています。また、嗜好性も高いため、食欲が落ちているときにも食べやすく、水分の補給に役立ちます。
⑤ チュールやスープで水分補給
水を飲ませたいときの一工夫として、チュールなどの液体おやつを使用する方法があります。液体おやつはカリカリタイプのおやつよりも水分量が多く、そのまま食べても水分補給になりますが、飲み水に混ぜることで水分をより摂ることができます。ただし、水道水よりも傷みやすくなるため、こまめに交換する必要があります。
⑥ 氷を浮かべて遊びながら飲ませる
暑い日などは氷を飲み水に浮かべてみると、猫が興味を持つかもしれません。氷で遊びながら手についた水分を舐めとることで、わずかではありますが水分を撮ることができます。
持病があったり、子猫やシニア猫は体温を奪われてしまうことから、おススメはできません。また、口内炎などの口のトラブルがあると、痛みが強く出ることがあります。
⑦ 温度を調整する(冷たすぎる水を嫌がる子も)
冷たすぎる水は猫も嫌がってしまうことがあります。特に口のトラブルがある猫は、あまり冷たい水は痛みを強くさせてしまいます。また、胃腸を冷やしてしまい、下痢や嘔吐の原因になることもあります。逆に、熱い水温では火傷をしてしまうため、温めた水を与える場合は人肌程度に冷ましてから与えましょう。
それでも飲まないときの対策と注意点

強制的な水分補給の是非(シリンジの使用など)
病気などで水分を多く摂らせたい、あまりにも水を飲まない場合、強制的に水を飲ませようとするかもしれません。しかし、シリンジなどで強制的に飲ませる方法は、誤嚥性肺炎のリスクがあることを忘れてはいけません。
また、猫はシリンジなどを口に入れられることを嫌がり、もしその時にシリンジで水を飲ませたりすると、水自体を拒んでしまう可能性があります。これはフードを強制給餌するときでも同じことが言えます。
そのため、シリンジなどを使用して強制的に水分補給をする場合は、最後においしいものを舐めさせるなど、なるべく嫌な記憶を残さないようにしましょう。どうしてもシリンジなどで水分摂取をしなければならない場合は、動物病院で指導を受けるようにしましょう。
頻繁な嘔吐・下痢や食欲不振がある場合は受診を
頻繁な嘔吐や下痢、食欲不振がある場合、何らかの病気の可能性があるだけでなく、脱水が進行してしまいます。夏場は脱水しやすい時期であるため、状態が深刻になってしまうこともあります。このような症状がある場合は、なるべく早く動物病院を受診するようにしましょう。
慢性腎臓病の兆候がある猫は特に注意
慢性腎臓病は、腎機能が低下することで尿中の水分を体の中に戻すことができず、水分が尿としてどんどん出て行ってしまう状態です。そのため、薄い尿が多量に出ます。慢性腎臓病の猫は出て行った水分を補うため多くの水を飲みますが、体にとどめておくことができません。
また、慢性腎臓病が進行してくると、食欲が低下し飲水量も低下します。さらに嘔吐や下痢などの症状も出現するため、体は常に脱水の状態になります。慢性腎臓病の猫が脱水の状態になると、腎臓がさらにダメージを受けることになります。飲み水だけでは必要量を補うことはできないため、ウェットフードなどを積極的に取り入れましょう。また、自宅や動物病院で皮下点滴をして水分を補う場合もあります。
シニア猫・腎臓病の猫に必要な水分管理

腎臓病猫にとっての水分摂取の重要性
前述しましたが、腎臓病の猫は水分が常に体の外に出ていきやすいため、脱水の状態になります。脱水になると、体の血液量が減少し、腎臓に十分な血液が行かなくなります。それにより、腎臓がダメージを受けるだけでなく、体内の老廃物が溜まりやすくなってしまいます。腎臓病のある猫は、健康な猫よりも多くの水分を摂取する必要があります。
水分が多い療法食・処方スープの利用
シニア猫や腎臓病の猫に対する療法食は非常に多くの種類があります。ドライフードだけでなく、療法食としてのウェットフードも開発されています。シニア猫や腎臓病の猫は積極的にウェットフードを取り入れることで、より多くの水分を取り込むことができます。また、猫用の経口補水液や流動食などもあり、シリンジでも与えやすいようになっています。
水を飲みやすい環境を用意
シニア猫や腎臓病のある猫は、より積極的に水を飲む必要があります。しかし、自分で飲みに行くことができなかったりすると諦めてしまう特徴もあります。そのため、猫がよくいる場所に水飲み容器を用意し、器には台などを設置して高さを出してあげると飲みやすくなります。また、その猫の好みにあった容器を用意することで、より多くの水を飲んでくれるようになります。
まとめ

猫はあまり水を飲まない傾向がありますが、そのままにすると脱水を起こしてしまいます。どれくらい水を飲んでいるかを把握し、少ないようであれば水飲み容器の材質を変えたり、個数を増やしたり、フードを変えてみたりなど、少しでも多くの水を飲める工夫をしましょう。水を飲むことで、より健康的な生活を送ることができ、猫の寿命を延ばす第一歩になります。
この記事のご感想をお寄せください!(コメントを書く)