猫の誤飲事故の中で最も多いのはおもちゃやひも類ですが、医薬品などの誤飲も起こりうる事故です。今回は人間の薬の誤飲事故について解説します。
猫が人間の薬を誤飲するとどうなる?

猫と人間の薬物代謝の違い
人も猫も体に入った薬物や毒物のほとんどが、肝臓で代謝を受けて無毒化され、体外に排出されます。肝臓での解毒には様々な代謝酵素が関与しますが、その代謝酵素は動物種によって違いがあり、猫は人とは異なります。肝臓での代謝酵素のうち、猫には「グルクロン酸抱合」と呼ばれる代謝経路に必要な酵素がなく、人に比べると解毒能力が低い動物となります。
猫にとって少量でも命に関わる薬がある理由
薬物は肝臓で代謝されて解毒されますが、薬物によってどの代謝酵素が分解するのかが異なります。猫はグルクロン酸抱合ができませんが、グルクロン酸抱合によって代謝される薬物は代謝されず、中毒症状が現れ命に関わることもあります。
薬の誤飲の場合、吐かせる処置を行いますが、猫は吐かないことが多く、体内に吸収されてしまうこともあるため、中毒になることがあります。
すぐ症状が出ないこともあるため注意が必要
すべての薬物が、摂取してすぐに症状が現れるのではなく、摂取した成分、量、猫の体質などによって現れる時間が異なります。猫の誤飲に気づいたけど、何も症状が出ないから様子をみていると、状態が悪くなってしまうこともあります。
よくある誤飲薬と猫にとっての危険度

解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン、イブプロフェンなど)
人の解熱鎮痛薬に含まれる成分は、猫にとって非常に危険です。
アセトアミノフェンはコロナウイルスやインフルエンザウイルスに感染した時に処方される解熱剤ですが、猫が誤飲すると非常に危険で少量でも中毒症状を起こしてしまいます。猫がアセトアミノフェンを摂取すると、重度の肝障害、貧血などを呈し、死に至ることもあります。
イブプロフェンも人の解熱鎮痛剤によく用いられていますが、猫では中毒を起こすことがあります。胃潰瘍や腎不全を起こすことがあります。
また、アスピリンも危険です。アスピリンは解熱鎮痛剤として使用されますが、抗血栓薬として猫にも使われることがあります。猫での使用量は少なく、人の薬を1錠飲んでしまうと中毒になります。食欲不振、元気消失、消化管出血、頻呼吸などの症状が現れます。
最近、ロキソニンが鎮痛剤として処方されたり購入することが多いですが、猫が安全に使用できる量がかなり少ないため、猫での処方はまずありません。人用の薬を誤飲してしまうと消化管や腎臓への障害が起こる可能性があります。
抗生剤、鎮静剤、抗がん剤など
様々な薬が猫にとって危険とされ、使用禁忌とされています。前述したアセトアミノフェンも使用禁忌薬剤となっています。使用禁忌となっている薬剤のうちの多くが、注射薬であるため誤飲事故は起こらないでしょう。猫に使用している薬の中に人体薬は多くありますが、一部の抗生剤や鎮静剤、抗がん剤などは副作用が起こりやすいため、薬剤を変更したり、投与量を調整する必要があります。そのため、それらの薬を多く飲んでしまうと、副作用が強く表れることがあります。
風邪薬・サプリメントなども油断は禁物
人の風邪薬には、解熱鎮痛剤としてアセトアミノフェンが含まれていることが少なくありません。誤って飲み込んでしまったり、猫風邪だからと意図的に飲ませてしまうと、アセトアミノフェン中毒になってしまいます。
また、サプリメントも注意が必要です。人のダイエット製品などに含まれるアルファリポ酸は中毒を起こします。中毒になると重篤な低血糖や肝機能障害を起こし、命に関わることもあります。猫の体重1kgあたり13mg程度で中毒量となり、製品によっては1粒で死に至る可能性があります。
「人間用でも少量なら平気」は大間違い
診察していると、内服薬や外用薬(塗り薬等)の人の薬を使って様子を見ていた方は意外と多くいらっしゃいます。人と動物の体重を比べて錠剤を割って使用される方もいます。実際、医薬品による中毒事故の中には、飼い主さんの自己判断で分割して与え、中毒症状が報告された例もあります。
動物病院では人体薬も使用しますが、投与する量を計算して処方しています。先述しましたが、猫と人では解毒の機序が異なるため、少量でも中毒になる薬が存在します。自己判断で人の薬を使用するのは絶対にやめましょう。
猫が薬を舐めた/飲んだかも?すぐにすべき対応

まずは慌てずに薬の名前・成分・量を確認
「いつ・何を・どれだけ」飲んだかが重要になります。人の薬の場合、少量でも中毒量になるため、医薬品名や成分、量が需要になります。処方された薬であれば、お薬手帳に薬の内容が載っていると思いますし、わからなければ処方された病院に問い合わせましょう。市販薬であれば、パッケージに医薬品名などが記載されています。そちらを確認し、動物病院に伝えましょう。
体調に異常がなくてもすぐに動物病院に連絡を
中毒はすぐに現れるわけではありません。胃や腸で吸収されてから中毒症状が現れるため、少し時間が経ってから症状が現れます。また、薬の成分や量、猫の体質によっても現れる時間は変わります。異常がなくてもすぐ動物病院に連絡しましょう。
無理に吐かせたり、水やミルクを飲ませるのは危険
医薬品の中には、吐かせて誤嚥すると、詰まってしまうことがあります。また、食事とともに吸収されやすくなったり、胃から小腸に押し流されてしまうこともあります。そのため、無理に吐かせたり、水やミルクを飲ませることはやめましょう。
獣医師に伝えるべき情報(薬の名称、時間、症状など)
薬の誤飲が疑われる場合、「いつ・何を・どれくらい」飲んだのかを伝えてください。吐かせる処置をするのか、洗浄するのか、対処法が変わってくるからです。また、今の症状を伝えましょう。誤飲に対する処置だけでなく、けいれんが起きていれば鎮静、低血糖が起きていれば血糖を上昇させる処置が必要になります。
薬をどのような状態で飲んだかも重要です。薬だけで飲み込んだのか、包装ごと飲み込んだのかをお伝えください。薬だけで飲み込んでいれば、催吐処置や胃洗浄が行われますが、包装ごと飲み込んでいる場合、胃や食道へのダメージを防ぐため、内視鏡や胃切開にて取り出す必要があります。
受診までに注意すべきこと
口の中に薬のかけらが残っていれば拭き取る
誤飲した薬を噛み砕いていることがあり、口の中に残っていることがあります。薬の種類によっては口の粘膜を荒らしてしまうことがあります。もしかけらが残っていれば拭き取りましょう。ただし、猫の口の中に指を入れるため、手袋をして作業すること、噛みつきがある場合は無理に取り除かないようにしましょう。
インターネットの自己判断に頼らない
薬を飲み込んだ場合、慌ててしまいインターネットに書かれている情報を鵜呑みにしてしまう可能性があります。例えば、水を飲ませる、食塩水を飲ませて吐かせるなどです。また、飲み込んだ薬の情報が正確でないかもしれません。インターネットに書かれていることを実践すると、場合によっては悪化させてしまうかもしれません。もし検索するのであればインターネットを鵜呑みにせず、深呼吸してから調べましょう。インターネットではなく、動物病院に問い合わせることが一番です。
自宅に常備すべき“ペット用救急情報ノート”とは
誤飲はいつ何時起こるかわかりません。昼間であればかかりつけ医に相談できますが、休診日や夜間の場合、対応できる病院を探さなくてはいけません。慌てないためにも、あらかじめ対応可能な病院をいくつかピックアップしておいて、すぐわかるようにメモしておきましょう。また、病院に伝えることや猫が普段飲んでいる薬などもまとめてノートにしておくとよいでしょう。
誤飲を防ぐためにできること

薬の管理方法(棚・ケース・飲み残しの扱い)
薬の誤飲の原因の多くが、人間側の管理不足にあります。薬を猫の手の届くところに置いてあったり、保存容器を落として破損させて誤飲してしまいます。そのため、薬は絶対に出しっぱなしにしない、棚など猫が開けられない場所に保管する、ケースに入れていても容易に取り出せない場所にしまうなどの対応が必要です。また、薬がある部屋には入れないことも必要です。
落としたらすぐ拾う/猫の届く場所に置かない
猫は薬ということを認識していません。転がってきたものには興味を示します。また、落ちているものに対して、食べられるかどうかを口の中に入れて判断します。もし薬を落としたら必ず拾うようにしましょう。後回しにしないようにしましょう。また、猫が薬を落として食べることがあるため、絶対に猫の手の届く場所に置かないようにしましょう。
飲み薬だけでなく湿布・塗り薬もリスクがあることを認識する
飲み薬だけでなく、湿布や塗り薬にも薬効成分が入っています。湿布の袋や塗り薬のチューブをかじってしまい、舐めてしまったケースもあります。「湿布や塗り薬だから大丈夫だろう」ではなく、それらも薬であることを認識して、必ずしまうようにしましょう。
まとめ

猫の薬の誤飲は、人間が適切に薬を管理していなかったことによって起こります。薬によっては少量で中毒になることもあります。もし薬を誤飲してしまったら、すぐ動物病院に連絡し、受診しましょう。そして、薬は猫の手の届かないところにしまうことも大切です。
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