「お腹やおっぱいにしこりを感じた」そんなときに考えられる病気のひとつが猫の乳腺がんです。猫の乳腺がんは進行が早く、発見が遅れると転移のリスクも高くなるため、早期の気づきと適切な対応が猫の命を守ります。本記事では獣医師が実際の臨床経験に基づき、症状から治療・予防まで詳しく解説します。
猫の乳腺がんとは?

乳腺がんはどんな病気?
猫の乳腺がんは、猫の乳腺に発生する悪性腫瘍です。猫の乳腺にできる腫瘍は良性・悪性がありますが、猫の乳腺腫瘍のうち約9割が悪性腫瘍である乳腺がんです。乳腺がんを含む乳腺腫瘍は、猫の腫瘍の中でも3番目に多い腫瘍です。非常に進行が早く、皮膚や腹壁にも拡がり(浸潤)、近くにあるリンパ節への転移や、肺や肝臓などへの遠隔転移も認められます。筆者自身の経験では、1か所の乳腺がんを確認した時点で、近くのリンパ節転移が確認されるほど、進行が早い腫瘍です。
発症しやすい年齢・性別
乳腺がんの発症年齢は幅広く、9か月〜23歳とされています。発生の多い年齢は10〜12歳です。乳腺がんの発生には性ホルモンが関係しているため、雌猫での発生がほとんどです。シャムネコに多いと言われており、シャムネコは他の品種の猫と比べると2倍の発生リスクがあります。
リスク因子(避妊手術の有無、ホルモンとの関係)
乳腺がんは性ホルモンが関係しており、避妊手術の有無で発生率が変わります。初回発情前の生後6ヶ月ごろに避妊手術を行なった場合、約9割で乳腺がんの発生リスクが低下します。しかし、発情を繰り返すと発生率が上がります。猫の場合、避妊手術をすると確実に予防できるというわけではなく、筆者の経験では生後6ヶ月で避妊手術をした猫での乳腺がんの経験があります。しかし、早期での避妊手術を行った猫の方が、予防効果は圧倒的に高いことがわかっています。
猫の乳腺がんの症状と気づき方

しこり・腫れ
乳腺がんは乳腺にできる悪性腫瘍です。そのため、乳頭付近にしこりが出来たり、その周辺が硬く腫れてくることがあります。片側だけのこともありますが、両方の乳腺にできることもあります。
出血・潰瘍・皮膚のただれ
猫の舌はざらざらしているため、乳腺がんのところを酷く舐めてしまい、出血や潰瘍、皮膚のただれが起きることがあります。進行した乳腺がんの場合も、皮膚に腫瘍細胞や血管が拡がるため、出血などが起こります。また、乳腺がんの中でも炎症性乳がんと呼ばれる、劇的に進行する乳腺がんがあります。炎症性乳がんは乳腺の皮膚が赤くなったり、潰瘍や出血が起こることがあります。
食欲不振・体重減少・元気がない
乳腺がんが乳腺に留まっている段階では、大きな症状はあまり見られません。しかし、転移により肺や肝臓、内臓に病変ができると、食欲不振や体重減少、元気がなくなるなどが現れます。肺に転移が起こると胸水が溜まってくるため、呼吸が苦しくなります。
乳腺がんは乳腺のしこり以外、明らかな症状が現れていなくても転移が起きている場合があります。しこりに気づいた時点で治療に取り掛かることが重要です。
猫の乳腺がんの治療法

外科手術
乳腺がんは外科手術により、片側もしくは両側の乳腺を摘出するのが第1選択になります。しかし、炎症性乳がんというタイプは非常に悪性度が高く、この場合は手術が適応になりません。
猫の乳腺がんの場合、片側の乳腺のみにしこりがあったとしても、反対側に広がっていることがあります。両側乳腺摘出術を行った場合と片側乳腺摘出術を行った場合の生存期間を比較すると、両側の方が約3年に対し片側では約1年と言われています。
抗がん剤治療
猫の乳腺がんは進行が早く、しこりに気づいた時点ですでに転移が起きていることがあります。手術をしても再発や肺などへの転移が起きることはよく見られます。そのため、術後に抗がん剤治療を併用することもあります。しかし、通常の乳腺がんでは抗がん剤治療のみを行うことはありませんが、炎症性乳がんの場合は抗がん剤治療が選択されます。
早期発見での治療成功率の違い
しこりを小さい段階で発見できた場合、リンパ節などに転移が起きていないこともあります。腫瘍の大きさによる生存期間の違いが報告されており、2㎝以下の腫瘍では3年以上、2〜3㎝で15〜24ヵ月、3㎝以上で4〜12ヵ月と言われています。小さいうちに発見できれば、寿命も延びる傾向にあります。
猫の乳腺がんの予防と日常ケア

避妊手術のタイミングと予防効果
乳腺がんは性ホルモンが関係しているため、発情により発生リスクが上昇します。初回発情前に避妊手術を行うと91%、1歳以下で避妊手術を行うと86%で発生リスクが低下します。多くの猫の初回発情は生後6ヶ月ごろのため、その頃に避妊手術をすることが重要です。発情を繰り返すと、発生リスクが徐々に高くなるため、初回発情が来てしまった場合でもなるべく早く手術をすることで発生率が低下します。
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定期的なお腹のチェック(しこりや腫れの確認)
乳腺がんはお腹にしこりができるため、定期的にお腹を触ってみましょう。乳頭の近くにしこりがある、腹部に硬い部分がある場合、乳腺の腫瘍の可能性があります。
初回発情前に避妊手術を行った猫でも、約1割で発生することがあるため、避妊手術をしていてもお腹をチェックすることは必要です。
健康診断
乳腺がんの早期発見には日常的にお腹チェックすることが重要です。しかし、お腹を触られるのが苦手な猫も多いです。動物病院の健康診断では、触診と言って全身を触ってしこりがないかを確かめます。乳腺がんは比較的高齢の猫で発生しやすいため、半年に一度は健康診断を受けるように心がけましょう。
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まとめ|猫の乳腺がんから猫を守るために

猫の乳腺腫瘍のほとんどが悪性である乳腺がんです。乳腺がんは進行が早く、しこりに気づいた時にはすでに転移が始まっていることも少なくありません。しかし、小さなしこりのうちに発見できれば、手術で根治ができる可能性があります。
乳腺がんは性ホルモンに依存しているため、避妊手術を行うことで発生リスクが低下します。初めての発情前に手術することで、ほぼ予防が可能です。
普段からお腹を触ってしこりがないかを確認し、少しでも異常に気づいたらすぐに動物病院を受診しましょう。
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