生活環境の充実や獣医療の発達により、猫の寿命は約15歳まで延びています。人間の年齢に換算すると、76歳程度になります。それに伴い、高齢猫のがんが増えており、死因のトップ3に入っています。
今回は猫のがんについて詳しく解説します。
猫のがんとは?発生率と発症しやすい種類

良性腫瘍と悪性腫瘍の違い
腫瘍と言うと悪いイメージにつながりやすいのですが、腫瘍の定義は「本来自己の体内に存在する細胞は、自律的に無目的にかつ過剰に増殖する状態」とされています。つまり、正常な細胞が何らかの原因で増えてしまうことです。腫瘍には良性腫瘍と悪性腫瘍があり、悪性腫瘍のことを「がん」と記載する傾向にあります。
良性腫瘍と悪性腫瘍の決定的な違いは転移の有無です。良性腫瘍も細胞が増えて大きくなりますが、周りとの境が明瞭であり、ゆっくり大きくなり、転移しません。一方、悪性腫瘍は周りの組織を壊しながら大きくなり、大きくなる速度も早く、転移が起こります。そして、治療をしても再発する可能性が非常に高い点で大きな違いがあります。
猫のがんの発生率
猫のがんは若齢での発生は少ないのですが、5歳を過ぎたころから増加傾向になります。10歳の高齢猫では5%ほどの発生率となります。
猫のがんの要因は様々ですが、加齢による遺伝子のエラーの蓄積、免疫低下、肥満などにより炎症が持続する、ウイルス感染(猫白血病ウイルスなど)、ホルモンの影響、化学物質による影響などが関係していると考えられています。
がんは高齢の方が罹患しやすいイメージですが、猫白血病ウイルスに感染している場合は若くしてがんになることもあります。
猫が発症しやすいがんの種類
猫に多いがんは、リンパ腫、乳腺腫瘍、肥満細胞腫、扁平上皮癌、線維肉腫などです。特にリンパ腫は腫瘍全体の20%にもなります。
猫のがんの主な症状と飼い主が気をつけるべき異変

食欲不振や体重減少、嘔吐、下痢
がんは周りから血液や栄養を奪って増殖します。そのため、初期症状の中に「食欲があるのに痩せてきている」ことがあります。また猫のがんは腸管に発生するものが多く、それにより食欲がなくなったり、嘔吐や下痢が増えたりします。また痛みにより食べられないことも多く見られます。
しこりや腫れの確認方法
皮膚にできやすいがんは、しこりとして発見されることがあります。肥満細胞腫や扁平上皮癌、線維肉腫などが皮膚のしこりとして見つかります。また、リンパ腫の中に全身のリンパ節が腫れるものがあり、あごのしこりとして発見されることがあります。
定期的に体を触ってぽこっとした膨らみがないかを確認しましょう。もしずっと舐めている部分があれば、そこを触ってみるのも良いでしょう。
口臭・よだれ・出血などの口腔内の異常
扁平上皮癌や口の中にできるがんは、口の中に異常が見られます。ひどい口臭やよだれ、歯茎からの出血、口が閉じられないなどの症状が見られます。
呼吸の乱れや元気の低下
がんは進行してくると全身に転移することがあります。胸水や腹水が溜まってくることがあり、呼吸が苦しくなってきます。また、出血や赤血球の破壊、産生低下から貧血になり、呼吸が苦しくなったり、動かなくなることもあります。
猫のがんの診断方法と治療法

血液検査・X線・超音波検査での診断
猫のがんのうち、リンパ腫や白血病などの血液のがんは血液検査で見つかることも多くあります。レントゲン検査や超音波検査もがんの診断には重要で、がんの場所の特定だけでなく、腹水や胸水が溜まっていないかなどの評価にも有用です。
CT・MRI検査の必要性
レントゲン検査や超音波検査は、診断する獣医師の経験やスキルによっても左右されます。また、頭や脊髄はレントゲンや超音波の検査が難しいため、CTやMRIなどの精密検査が必要になることがあります。
外科手術・放射線治療・化学療法(抗がん剤)の選択肢
がんの種類によっても治療の第1選択が変わります。リンパ腫や白血病などの血液のがんの場合、抗がん剤による治療が第1選択になりますし、肥満細胞腫や線維肉腫などは手術による摘出が第1選択になります。また、鼻腔腺癌など一部のがんには放射線療法が行われることがあります。多くのがんがこれらの治療を組み合わせて行われます。
緩和治療や対症療法
がんの治療は、がん自体を治療する根治治療だけでなく、QOLの改善を図ることを目的とした緩和治療も含まれます。緩和治療の多くが、がんが全身に及んでいたり、転移が成立しているような状態で行われることがあります。緩和治療は、がんを少しでも小さくするために手術や抗がん剤、放射線を使用することがあります。また、嘔吐や痛みなどのつらい症状を軽減するために、症状をなくすための対症療法を組み合わせます。
猫の癌の予防と早期発見のポイント

猫の定期健康診断の重要性
がんの進行は早く、発見したときにはすでに転移していることも少なくありません。そのため、定期的に健康診断をすることが重要になります。猫のがんは5歳ごろから増えてくる傾向にあります。そのため、最低でも年に1回、できれば年に2回検査するのが良いでしょう。健康診断は動物病院によって検査項目が変わりますが、可能であればレントゲン検査や超音波検査まで受けることをお勧めします。
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猫の食事と体重コントロールの重要性
猫はキャットフードと飲み水があれば、体を維持するのに必要なエネルギーや栄養素を摂取することができます。人間の食べ物は塩分が多く含まれていたり、添加物が含まれており、猫にとっては体調を崩す原因になりかねません。がんだけでなく、様々な病気の原因にもなります。
今室内飼育されている猫は栄養状態がよいため、ほとんどが肥満傾向にあります。肥満になると、体の中で炎症が起きやすいことがわかっており、がんとの関係性も示唆されています。食事の質と量を見直し、適正体重を維持できるようにしましょう。
ワクチン接種
リンパ腫などのがんの一部に、猫白血病ウイルスが原因となっていることがわかっています。ウイルスが関係したがんは若く発症する傾向があります。猫白血病は特に外に出かける猫に多く感染します。猫白血病ウイルスに対するワクチンがあるので、外に出かける機会のある猫白血病のワクチンを接種しましょう。
ワクチン接種の間隔は、世界小動物獣医師会のワクチネーションプログラムで成猫であれば3年以上の間隔を空けての接種を推奨しています。その理由として、ワクチンの効果が3年以上持続すること、ワクチン接種した部位にワクチン関連性線維肉腫ができることがあげられています。
ワクチン関連性線維肉腫は、発生した場所に深く根を張ったようにしこりができますが、転移を起こしにくいがんです。そのため、がんができた部位を切除(断脚)できるように、後ろ足に注射することが推奨されています。ワクチンを打った場所にしこりができていないか、定期的に触って確認しましょう。
飼い主ができる日々の健康チェックのポイント
がんは気づいた時には進行していることが多く、猫のがんは完治しないことも少なくありません。早期発見、早期治療が大切になります。普段から体を触るようにし、しこりがないか、痩せてきていないか、痛がるところはないかなど観察するようにしましょう。食欲や元気のあるなしも普段からよく観察するようにしましょう。
まとめ

がんは高齢猫に発生しやすい傾向にあります。早期発見・早期治療が治療のポイントです。早期発見につなげるためにも、定期的な健康診断や少しの異常でも動物病院にかかるようにしましょう。
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