愛猫の皮膚に「しこり」や「赤み」を見つけて不安になったことはありませんか?その正体のひとつが猫の肥満細胞腫です。皮膚に多く発生しますが、内臓にできることもあり、早期発見が治療の鍵になります。本記事では、症状・治療・予後・日常のケアについて、獣医師が詳しく解説します。
猫の肥満細胞腫とは?

肥満細胞腫とはどんな腫瘍か
肥満細胞という細胞が腫瘍化した悪性腫瘍です。元々、肥満細胞は免疫細胞の一種で、アレルギー反応などに関与しています。体内の粘膜などに存在しています。
肥満細胞腫は肥満細胞が悪性化し、皮膚や内臓などに腫瘤を形成します。肥満細胞にはヒスタミンやヘパリンなどの様々な物質を含んでいるため、これらが放出されて腫れや痒み、出血などを引き起こします。肥満細胞腫には「皮膚型」と「内臓型」があります。
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皮膚型と内臓型の違い
「皮膚型」は皮膚に肥満細胞腫ができ、顔や耳にできることが多い腫瘍ですが、全身のどこにでも発生します。脱毛や痒みが主な症状です。虫刺されのようなできものとして発見されるケースが多いです。単独でできる場合もありますが、全身的に多発することもあります。猫の「皮膚型」の肥満細胞腫は悪性度が低く、転移も起こりにくい腫瘍です。
「内臓型」は体内に肥満細胞腫の腫瘤ができ、食欲不振や嘔吐などの症状が現れます。「内臓型」の肥満細胞腫は転移しやすく、予後が悪いことが多い腫瘍です。内臓型の肥満細胞腫が皮膚に転移し、皮膚型に見えることもあります。筆者自身、過去に1例ではありますが、脾臓にできた肥満細胞腫の転移で全身の皮膚に腫瘤ができたケースを診察したことがあります。
発症しやすい年齢やリスク要因
原因やリスク要因ははっきりとわかっていません。中高齢の猫に多く発症する傾向があります。
猫の肥満細胞腫の症状

皮膚に見られる症状
皮膚型の肥満細胞腫は、小さなしこりとして発見されることが多いです。時間が経つと痒みや脱毛などの症状が現れ、しこりと周辺の皮膚に赤みが出ることもあります。
内臓にできた場合の症状
内臓型は主に脾臓と消化器に発生します。内臓に腫瘤ができるため、嘔吐や下痢、食欲不振などが現れます。
症状が進行する前に気づくポイント
皮膚型の場合、虫刺されのような湿疹ができます。単独でできた場合、見逃されてしまうことがあります。虫刺されはすぐに良くなりますが、皮膚型肥満細胞腫は湿疹が治らず残ります。痒がりがあるようであれば、掻いているところをよく観察してもらい、湿疹があるようであればすぐに受診するようにしましょう。
内臓型肥満細胞腫は他の疾患でも現れるような症状が出現します。普段から食事量などをよく見ておき、食欲の変化や嘔吐の程度などを把握しておくことが必要です。
治療法と予後

外科手術による切除
皮膚型肥満細胞腫が単独でできている場合、腫瘤とその周囲の健康な皮膚を広く切除することで根治できることがあります。肥満細胞腫は腫瘍細胞が広く入り込んでいるため、通常腫瘤から2〜3㎝の健康な皮膚も含めて切除します。
脾臓にできた内臓型肥満細胞腫では脾臓を摘出する外科手術が行われることがあります。しかし、内臓型の場合は転移が起きていることがあるため、外科手術後に抗がん剤などを併用することがあります。
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抗がん剤や放射線治療
多発した皮膚型の肥満細胞腫や、外科手術で取りきれなかったもの、内臓型の肥満細胞腫では抗がん剤やステロイド剤を使用することがあります。しかし、猫での抗がん剤の効果は十分に証明されていません。
肥満細胞腫の治療で多く用いられるのが、分子標的薬と呼ばれる、がん細胞に多く現れるタンパク質や酵素を標的とした薬剤です。従来の抗がん剤に比べ、副作用が少ないのが特徴です。猫の多発した皮膚型肥満細胞腫や外科手術が難しい症例、転移を抑制する目的で使用されます。
放射線治療も肥満細胞腫の治療として用いられます。腫瘍が一部分に限局している場合に選択されます。しかし、放射線治療の設備がある病院は大学病院など限られた施設になること、全身麻酔で行われること、費用が高額であることなどの問題があります。
転移の有無と予後の違い
単独の皮膚型肥満細胞腫であれば、外科切除によって完治します。そのため、予後は良好です。しかし、4ヶ所以上の腫瘍がある場合、生存期間が1年から2年と言われています。内臓型の場合は転移が早いためさらに余命が短く、1年以内に亡くなります。
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日常ケアと注意点

皮膚チェックを習慣にする
皮膚型の肥満細胞腫は、皮膚の腫瘤に早く気づくことが重要です。特に頭や耳、首などにしこりができるため、そこは定期的にチェックするようにしましょう。
多頭飼い家庭でのケアの工夫
肥満細胞腫自体は予防することができない腫瘍です。もし皮膚にしこりがある場合、舐められることで状況が悪くなることがあります。肥満細胞腫の腫瘍細胞の中には、ヒスタミンやヘパリンなどの化学物質が含まれており、刺激で放出されます。これらの化学物質により痒みが強くなったり、出血しやすくなったりします。
また消化管出血を引き起こしたり、血管拡張を促す物質もあるため、血圧が低下しショック症状を起こすことがあります。そのため、刺激を与えないようにしてあげましょう。
まとめ|猫の肥満細胞腫と向き合うために

肥満細胞腫は早期発見が重要になります。皮膚型で早期に治療できれば完治も可能です。内臓型でも早期発見により転移が阻止できれば、寿命が延びる可能性があります。そのため、早期発見・早期治療が必要になります。
皮膚型は皮膚炎として目に見えるため、皮膚の異常に気づいたらすぐ受診しましょう。内臓型は超音波検査などでないと発見できません。そのため、皮膚の症状だけでなく、嘔吐などの症状がある場合も受診が必要です。
早期発見・早期治療により、猫にとってよりよい生活を送れるようにしましょう。
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