「かわいい」を消費する時代からどう変わった? 11年間、猫記事を書き続けたライターが感じたメディアの変化

「かわいい」を消費する時代からどう変わった? 11年間、猫記事を書き続けたライターが感じたメディアの変化

私が「猫ライター」として猫の記事を書き始めた11年前と今では、メディアで配信される猫記事の内容が大きく変化し、募集されるライターの条件にもスキルが求められるようになってきています。

今回は、猫ライターを続けてきた私が感じた猫記事の変化や、動物ライターに求められることを綴りました。

11年前のトレンドは「かわいい」を消費する猫記事の量産

私が猫ライターになった頃はまだ、まとめサイトが全盛を誇っていた時代でした。人間の医療・健康記事にすら専門的な監修がなされておらず、写真の無断転載や信ぴょう性が乏しい記事の量産が当たり前でした。

きっと、記憶にある方も多いWELQ(ウェルク)騒動(※DeNAが運営する医療情報サイト「WELQ」で、記事の信憑性や著作権侵害などが問題になった事件)。私は外部ライターとして、記事の執筆や構成に携わっていました。

指定されたSEOのキーワードを入れ込んで、なんとか記事の土台を作る業務に違和感を覚え、「自分にはSEO記事は合わないんだ」と感じ、SEO記事の執筆から離れました。

11年前のトレンドは「かわいい」を消費する猫記事の量産

あの頃は、Googleの検索で記事が上位に表示されることがとても重視されており、ほとんどの記事にSEO対策がなされていました。

WELQ騒動により、ネット記事の在り方が見直されましたが、動物に関する医療・病気の記事に監修がつくまでには時間がかかりました。動物の健康情報がまだ軽く扱われていたこの頃は、猫の「かわいさ」だけにスポットをあてた記事がトレンド。

スター猫や人気猫が続々と誕生し、「かわいさが伝わればそれでよし!」のような猫記事がほとんど。実際、私も「飼い主がキュンとした愛猫の光景〇選」のような記事を執筆していました。

スター猫や人気猫が続々と誕生し、「かわいさが伝わればそれでよし!」のような猫記事がほとんど。実際、私も「飼い主がキュンとした愛猫の光景〇選」のような記事を執筆していました。

ただ、記事を執筆しながらもどかしさを感じていました。そもそも、私が猫ライターを志したのは猫が好きだったことや猫に心を救われたことだけでなく、譲り受けた子猫が白い便を出した時、ネットで必要な情報を得られず、医師による誤診で命を落としてしまったからでした。 

自分にもっと知識があれば、守れたかもしれない。そう思ったから猫ライターを目指したけれど、実際に与えられるのは猫のかわいさを押し出す記事。もっと「命の守り方」や「ひとつの命との暮らし方」を考える記事を書きたいと心から思いました。

自分にもっと知識があれば、守れたかもしれない。そう思ったから猫ライターを目指したけれど、実際に与えられるのは猫のかわいさを押し出す記事。もっと「命の守り方」や「ひとつの命との暮らし方」を考える記事を書きたいと心から思いました。

そこで、まずは知識を身につけて肩書きを持とうと、「愛玩動物飼養管理士」や「キャットスペシャリスト」の資格を取得。肩書きを自分の強みにし、さまざまな媒体に自分を売り込み、「かわいい」を消費するだけではない記事を書くようになりました。

「かわいい」の消費から「猫との暮らし方」を考える記事へ

きっと、私のように「かわいさ」を伝えるだけの猫記事を書くことに辟易したライターは多かったんだと思います。世間で「猫ブーム」と呼ばれるほど猫の人気が高まってきた2018~2019年頃から、自分に任される記事や他メディアが配信する猫記事の内容が変わってきました。

「かわいい」の消費から「猫との暮らし方」を考える記事へ

この頃、特に執筆依頼が多かったのは「やってみた系の記事」。100均のアイテムでキャットタワーを作ったり、夏にちゅーるでアイスを作ったりと、手軽に実践できる「猫との楽しい暮らし方」を書くことが多くなりました。

「かわいい」だけが消費される時代は終わった。そう感じて嬉しかったけれど、猫と人の暮らしに関する記事を書く中で、私は「猫と人間が快適に暮らせる環境を伝えるには、もっと専門的な知識が必要なのではないだろうか」と思うようになりました。

 

「かわいい」だけが消費される時代は終わった。そう感じて嬉しかったけれど、猫と人の暮らしに関する記事を書く中で、私は「猫と人間が快適に暮らせる環境を伝えるには、もっと専門的な知識が必要なのではないだろうか」と思うようになりました。

そこで、自身が建てた猫と人間が快適に暮らせる注文住宅の工夫を発信したり、賃貸で工夫を凝らしたDIYを行って猫との快適な暮らしを送っている人に話を聞いたりするように。

この時期は、メディアとしても「猫との今の暮らし方」にスポットを当てる記事が多かった印象があります。 

猫ブームの落ち着きでトレンドを模索 ライターのオリジナル記事が溢れた時代

その後、私はペット共生住宅管理士を取得。様々な人に「猫と人間が快適に暮らせる家づくり」を聞く中で興味を持ったのは、病気や障害などのハンディキャップがある猫との暮らし方です。

ハンディキャップがある猫は「かわいさ」を消費されていた頃にはスポットが当たらなかった存在であり、里親が決まりにくい傾向があります。

猫ブームの落ち着きでトレンドを模索 ライターのオリジナル記事が溢れた時代

でも、実際に取材をしてみると、ちょっとした工夫で人間と快適な暮らしができている子も多くいて、教科書で学んだ知識の浅さを痛感させられました。

もちろん、人間と同じく猫の障害や病気も重症度が違い、個体差もあります。そして、金銭的な負担は健常な猫よりも増す傾向にあるのが現実です。

でも、「うちの子には、こういう疾患があるから、こういう工夫をして一緒に暮らしているよ」という当事者談が増えたら、関わり方や接し方を知れ、ハンディキャップを持っていても里親が決まりやすくなるのではないかと思いました。

でも、「うちの子には、こういう疾患があるから、こういう工夫をして一緒に暮らしているよ」という当事者談が増えたら、関わり方や接し方を知れ、ハンディキャップを持っていても里親が決まりやすくなるのではないかと思いました。

私たち人間は「分からないこと」には臆病になってしまいますが、対処法やケア法が分かれば、相手を受け入れることができる長所があります。

この頃は猫ブームが少し落ち着き、メディアも多様な猫記事の在り方を模索しているように感じました。それもあり、もともと独自路線に行きがちな私はこの頃から、本格的に猫記事のトレンドを意識しなくなりました。

この頃は猫ブームが少し落ち着き、メディアも多様な猫記事の在り方を模索しているように感じました。それもあり、もともと独自路線に行きがちな私はこの頃から、本格的に猫記事のトレンドを意識しなくなりました。

一般的な「猫との共生住宅」の記事だけでなく、病気や障害のある子が快適に暮らせる環境の作り方や、飼い主さんがしているケアなどを取材しよう。そう思って、取材対象者さんの幅を広げました。

また、さまざまな話を聞く中で、「本当に快適な猫共生住宅とは?」と深く考えるようになったのも、この頃からです。

例えば、キャットステップの幅の狭さは猫の運動神経によって緻密な調整をする必要がありますし、愛猫の老いによって、若猫期には必要だったキャットウォークなどが老猫期には「危険なもの」に変わると現実にも気づきました。

同時期、私と同じく独自路線を突き詰める動物ライターさんはきっと増えていたのだと思います。コロナ禍はオリジナリティあふれる独自路線の猫記事が増え、スター猫以外の保護ストーリーも多く紹介されるようになりました。 

ショートなバズ記事と「猫の一生」を考える記事への二極化

近年では「SNSでバズった猫」というように形を変え、再び猫のかわいさだけに着目するショート記事が増えています。私も取材依頼を何回か受けたことがありますが、こちらが回答する質問はなく、ただバズった投稿を見て記事を執筆されることが大半でした。

ショートなバズ記事と「猫の一生」を考える記事への二極化

様々な事情で長文が読むことが難しい人が増えているので、そういうショート記事にも需要があることは分かるので、否定はしません。ただ、取材対象となる「猫」は命ある生き物。過去のように、猫のかわいさだけを搾取する記事の量産にはなってほしくないなという想いは、いち動物ライターとしてあります。

ただ、近年ではショート記事と共に「猫の老い」や「猫と暮らす上での社会的な問題(老々介護など)」「ペットロスとの向き合い方」など「猫との一生」を考える記事も増えています。

これは、飼い主側が知りたいと思う情報が「猫と人間の快適な共存法」から発展し、「猫との一生の過ごし方」になり、猫を「命」として綴るライターが多くなっているからではないかと思っています。

これは、飼い主側が知りたいと思う情報が「猫と人間の快適な共存法」から発展し、「猫との一生の過ごし方」になり、猫を「命」として綴るライターが多くなっているからではないかと思っています。

今後、動物ライターは「安楽死」など、よりセンシティブな課題にも目を向けていくことが求められるかもしれません。そうした時に必要なのは、その動物や病気に関する知識。私たち動物ライターにはそうした知識をアップデートし、命を綴っていく責務があると思います。

動物ライターは、「人物取材の経験がない」と捉えられることがあります。実際私は今でも、ライター応募時に実績として猫記事の執筆を話すと、「人物取材の経験はありますか」と聞かれることがあります。

正直、そうした質問に私は違和感を覚えます。動物ライターは動物の命を綴るだけでなく、飼い主さんの人生も聞く仕事です。

飼い主さんの人生にその子がどう関わり、どういう今があるのか。また、どういう最期を迎え、何を学んだのかなど、時にはとても繊細な心の内も聞くことがあります。

動物ライターは、ふたつの命を綴る仕事。私はそう思うからこそ、これから先の猫記事が飼い主にとってより有益なものであり、その子が生きた証がしっかり綴られている脱量産系の記事であることを願っていますし、自分もそういう記事を書き続けたいと思っています。

猫をブームではなく、ひとつの命として捉え、必要な情報を届ける。それが、猫に救われた私ができる恩返し。時代や求められるトレンドが変わっていっても、その青くさい視点はずっと持ち続けていたいです。


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