猫の下痢の原因と対処法を獣医師が詳しく解説

猫の下痢の原因と対処法を獣医師が詳しく解説

猫を飼っている間に、少なくとも一度は下痢をするかと思います。そんなとき、飼い主さんはどうしたらよいのでしょう?

猫の下痢の原因は、非常にたくさんあります。下痢をしたらまず動物病院にかかると思いますが、飼い主さんからの情報が治療を左右すると言っても過言ではありません。慌てずに便の状態をよく観察しましょう。今回は、猫の下痢の原因と対処法について解説します。

猫の正常な便と下痢の違い

猫の便について

猫の便はコロコロとあまり水分のない硬いイメージがあるかもしれません。獣医学的な定義では、糞便中の水分が70%程度のものが正常、80%以上になると下痢とされています。

正常な便と下痢の違いについて知っておきましょう。

正常な便

猫の正常な便は、形がしっかりあり、表面にひび割れが見えます。表面がわずかに湿っていることがありますが、持ち上げても形は崩れません。

下痢

液状でないもの(軟便)から、完全に液状の便(液状便、水様便、泥状便)のことを下痢と言います。

軟便は非常にやわらかい便です。拾い上げた時に、崩れ落ちるほどの柔らかさが特徴です。

液状便は液体がほとんどの状態のことを言います。

猫の下痢の原因

猫の下痢の原因

猫の下痢の原因は非常に多くあります。主な原因として、ストレス、食事、疾患ですが、下痢のほとんどが疾患によるものです。

ストレス

環境の変化(引っ越し、季節の変わり目、来客など)により、一時的にストレスがかかります。すると、免疫力の低下により腸内細菌のバランスが崩れるため、下痢を起こしやすくなります。

食事

特定の原料が入ったフードに変えた時に下痢を起こす場合、食物アレルギーの可能性があります。また、開封してから時間が経っているフードは劣化しているため、下痢の原因になります。

猫は人間用の牛乳に含まれている乳糖を分解できません。人用の牛乳を与えている場合も下痢を引き起こします。

疾患

下痢を引き起こす疾患は非常に多くあります。下痢を引き起こす主な疾患について説明します。

・寄生虫症

猫の腸内などに寄生する回虫、条虫といったいわゆるサナダムシや、ジアルジア、腸トリコモナス、コクシジウムといった原虫と呼ばれるものも下痢を引き起こします。目に見えるものもあれば、顕微鏡で見ないと見えないものもあります。

・ウイルス

ウイルスによる下痢は、子猫では致命的になることがあります。

特に注意が必要なものはパルボウイルスであり、感染すると致死率が非常に高いウイルスです。さらに、このウイルスは感染力が強いため、消毒をしっかり行わなければ、同居猫にも感染します。

猫コロナウイルスも下痢を起こすウイルスですが、子猫期に軽い下痢を引き起こします。このウイルスは後述するFIPの原因ウイルスでもあります。

・慢性腎臓病

猫はシニア期に入ると、ほぼ慢性腎臓病になります。慢性腎臓病の症状の一つに下痢があります。

慢性腎臓病は、体内の水分を尿として排泄する能力が低下します。そのため、便の水分量の調整がうまくできずに下痢になることがあります。

・免疫不全症

猫エイズや猫白血病になると、全身の免疫力が著しく低下するため、腸内で病原性のある菌が異常増殖して下痢をすることがあります。また、免疫不全症の猫はひどい口内炎により食欲が低下するため、腸の運動が異常になり、下痢をすることがあります。

・腫瘍性疾患

猫の腫瘍性疾患の内、お腹の中にできるものは下痢を起こす可能性があります。腫瘍により炎症が強くなると、腸管に炎症が拡がり、腸がむくんだ状態になります。むくんだ腸は水分をたくさん含んでいるため便に水分が入り込みやすくなり、さらに炎症によって腸管が異常に動くため下痢を引き起こします。

・FIP(猫伝染性腹膜炎)

FIPは、前述した猫コロナウイルスという猫の軽い下痢の原因となるウイルスが、感染猫の腸内で突然変異を起こして発症します。FIPのタイプには、腹水や胸水がたまるウェットタイプ、体内に肉芽腫という固まりを作るドライタイプ、その両方を示す混合タイプがあります。元々下痢を起こすウイルスが原因であるため、下痢は症状の一つです。この病気の治療法はまだ確立されていないため、診断がつくまでに亡くなることがほとんどです。

猫の下痢の対処法

猫の下痢の対処法

猫が下痢をした場合、1回で治ってしまったのであれば、少し様子を見てもいいかもしれません。何度も下痢をしているようであれば、脱水の危険性も出てくるので、早めに対処しましょう。

動物病院を受診する

猫が下痢をした場合、動物病院に受診することを一番にお勧めします。下痢のほとんどが疾患であり、他の動物や人に感染する感染症の可能性もあります。また、動物病院を受診する際、必ず便を持参しましょう。持参する便はなるべく新鮮なものにしましょう。

また、便の回数、他の症状の有無、フードの種類、ワクチンやノミ・ダニ駆除の予防歴などを記録し、獣医師に伝えるようにしましょう。

フードを見直す

使用しているフードが開封してかなり時間が経過している物であれば、すぐに捨てましょう。ドライフードであれば開封してから1か月以内、ウェットフードであれば開封してから冷蔵庫保存でも2日以内に使い切りましょう。

牛乳を飲ませているのであれば、猫用ミルクに変更しましょう。

特定の原料の入ったフードで下痢をした場合、食物アレルギーの可能性があるので、まったく違うフードに変更します。ただし、アレルギー反応はすぐ治まらないため、フードを変えてもしばらく下痢をする可能性があります。フードを変更してから2週間は継続し、便の様子を見ましょう。ひどくなる場合は、動物病院を受診しましょう。

アレルギーの診断はフードの変更だけでは難しいため、必ず獣医師の診察を受けましょう。

ストレスに配慮する

猫は環境の変化によって下痢を起こすことがあります。季節の変わり目のよる下痢は対応することが難しいですが、引っ越しや来客の場合は、猫が落ち着くまで静かな場所で待機させましょう。ストレスによる下痢は一過性です。乳酸菌のサプリなどで軽減することが可能かと思います。

まとめ

まとめ

猫の下痢は、すぐに治まるものであれば様子を見ても問題ないかと思います。しかし、長引く下痢や、1日に何度も下痢をする場合は、猫が脱水をしてしまったり、進行性の病気の場合は悪化してしまうことがあります。また、病原体による下痢は他の動物や人に感染する恐れがあります。

便の回数、状態を日ごろから観察し、少しでも異常がある場合は動物病院に相談しましょう。

猫の健康手帳


著者プロフィール

後藤マチ子
獣医師 後藤マチ子
めのうアニマルクリニック院長。猫好きが高じ、愛知県額田郡幸田町に犬猫分離型動物病院「めのうアニマルクリニック」を開院。「犬にも猫にも優しい病院」をコンセプトとして診療するとともに、保護猫の譲渡活動にも注力している。


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