猫の認知症ってどんな病気?原因や症状、対策法を獣医師が解説

猫の認知症ってどんな病気?原因や症状、対策法を獣医師が解説

近年、獣医療の発達や生活環境、フードの質の向上により、長生きする猫が増えてきました。

現在の猫の平均寿命は約15歳と言われています。15歳の猫を人間の年齢に換算すると、76歳ほどになります。人間でも高齢になると認知症を発症します。猫も人と同じように認知症になることが分かってきています。

今回は、猫の認知症について解説します。

猫が認知症になる年齢は?

猫の認知症とは

猫の認知症とは、何らかの後天的な脳の障害によって認知機能が低下し、日常生活に支障をきたすようになった状態のことを言います。

主な原因は老化によるものですが、人のアルツハイマー病のような脳の変性性疾患、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、脳腫瘍や脳炎などの脳疾患に伴って見られるものもあります。10歳を過ぎる頃から認知機能の低下が見られる猫が増えてくると言われています。

猫の認知症の原因とは

猫の認知症の原因

猫の認知症の主な原因は、老化、脳の変性性疾患、脳血管障害、脳疾患などがあります。その他にも、代謝性疾患などにより起こることもあります。

老化

認知症の一番の原因は老化と考えられています。脳細胞や神経が、老化により数が減少したり機能が衰えてくると、認知機能が低下してきます。

脳の変性性疾患

人の認知症の大きな原因である、アルツハイマー病が変性性疾患に当たります。アルツハイマー病は、脳に老廃物が蓄積することで認知機能が低下します。アルツハイマー病は人間特有と考えられていましたが、近年猫にも同じような病態があることが分かってきました。

脳血管疾患

人の認知症の原因の一つに、脳血管疾患があります。脳の血管が損傷を受けて出血したり、血栓などで詰まったりすると、その周辺の脳細胞に血液が行かなくなり、脳細胞が死滅します。それにより、認知機能が低下します。猫の脳血管疾患はあまり多くはありませんが、高齢猫は慢性腎臓病や甲状腺機能亢進症により高血圧となり、脳血管からの出血などが起こることがあります。

脳疾患

脳腫瘍や脳炎などの脳疾患により、脳細胞がダメージを受けることがあります。ダメージを受ける範囲が大きかったり、記憶に関する脳の領域がダメージを受けると、認知症を発症することがあります。

また、事故などで頭部に外傷があった場合も、認知症を発症することがあります。

その他全身性疾患

脳に直接異常がなくても、全身的な疾患により脳にダメージが起こり、認知症を発症することがあります。高齢期に多い慢性腎疾患、甲状腺機能亢進症により、脳の血管がダメージを受けることがあります。また、心疾患で血栓が作られると、脳の血管に詰まることがあります。糖尿病や肝臓病になると、脳に障害を起こす物質が作られるようになり、認知症のリスクが高まります。


猫の認知症のサインとは

認知症の症状

猫の認知症の症状は、認知機能の低下のみならず様々な症状が現れます。これらの症状は、認知症特有の症状ではなく、様々な疾患でも現れる症状です。自己判断をしないようにしましょう。

夜鳴きや無駄鳴き

認知症を発症した猫は、昼夜逆転になることがあり、夜中に突然大きな声で鳴き続けることがあります。

夜鳴きや無駄鳴きは、認知症以外でも見られます。高齢期になると、視覚や聴覚が衰えてくるため、猫が強く不安を感じて鳴くことがあります。また、高齢期は関節炎を起こす猫が多く、痛みなどから鳴くこともよく見られます。甲状腺機能亢進症を発症すると、興奮しやすくなるため、夜鳴きをすることがあります。

粗相

認知症になると、今までトイレができていたのに、急に粗相してしまうようになります。認知機能の低下により、トイレの場所を忘れてしまったり、排尿の感覚が鈍くなることで粗相が起こります。認知症以外にも、慢性腎疾患になると排尿が増えるために、トイレに間に合わず粗相することもあります。また、関節炎があると、痛みからトイレまでいけなくなり、粗相することがあります。膀胱炎や糖尿病でも排尿回数や尿量が増加するため、トイレに間に合わないことがあります。

徘徊

同じ方向にぐるぐると回ってしまったり、部屋の壁に沿って同じ方向に進んでしまう、徘徊が認知症ではよく見られます。認知機能の低下により、自分の場所が分からなくなることで徘徊が起こります。認知症以外でも、視力が衰えてきても徘徊が起こります。脳腫瘍などで麻痺が起きた場合も、同じ方向にぐるぐる回ることがあります。

性格の変化

認知症になると、食べ物やおもちゃなど、今まで好きだったものに無反応になることがあります。飼い主さんの呼びかけにも反応しなくなって来ます。視力や聴力の低下によっても同じことがあります。

また、逆に性格がきつくなったり食欲が異常に増えることもあります。

猫の認知症はどうやって治すの?

認知症の対策法

認知症は脳の機能障害により、認知機能が低下します。

残念ながら、現在の獣医学では認知症自体を治療することが難しく、認知機能を低下させないようにしていくことが重要になります。

脳に適度な刺激を与える

脳に刺激を与えることで、低下した認知機能が改善する可能性があります。認知症を発症すると、刺激に無反応になりやすいですが、おもちゃで遊びに誘ってみたり、知育玩具を使ってフードをあげるなど、いつもと違う刺激を与えてみましょう。おもちゃなどに反応しない場合でも、マッサージやブラッシング、関節の曲げ伸ばしを行うことで、脳に刺激が加わります。高齢猫の場合、関節に痛みがあることがあります。痛みで嫌がっている場合は無理に行わないようにしましょう。

強いストレスを避ける

強いストレスは脳の血流を阻害し、認知症の進行につながる恐れがあります。いつもの生活に少し変化を加えることは、脳を活性化する可能性がありますが、猫が戸惑うほどの変化は強いストレスになります。特に、物の配置を変えてしまうと、思わぬ事故や粗相などのトラブルになりかねないため、絶対にやめましょう。

サプリメントなどを使う

オメガ3脂肪酸(DHAやEPA)などは、脳を活性化するサプリメントとして注目されており、フードに添加されている場合もあります。サプリメントは科学的に根拠が十分示されているわけではないため、絶対効果が得られるものではありませんが、少しでも認知症の進行を緩やかにするために使ってみるもの良いでしょう。

オメガ3脂肪酸には脳の活性化だけでなく、抗炎症効果も期待されており、関節炎や慢性腎臓病などでも処方されます。

夜鳴きや無駄鳴き

夜鳴きや無駄鳴き自体をコントロールすることは難しいものです。前述しましたが、夜鳴きなどは認知症以外でも起こります。まずは、動物病院で他の疾患がないかを調べましょう。認知症以外の疾患の場合、治療により夜鳴きなどが改善する可能性があります。

認知症による夜鳴きであれば、生活リズムを整えることも重要になります。太陽の光に当たることで、体内時計のリズムが調整されます。ただし、光の当たり過ぎは皮膚を傷つけることがあります。逃げ場所を作ったり、時間を決めるなどして対応しましょう。

認知症の猫の介護をする場合、飼い主さんが一番つらいと思うのが夜鳴きと言われています。あまりにも夜鳴きがひどい場合は、睡眠薬や抗不安薬を使用することがあります。夜鳴きくらいで動物病院にかかってもいいのかと思う飼い主さんもいますが、動物病院では高齢猫の介護についてもアドバイスが可能です。

徘徊

認知症による徘徊の場合、コントロールではなく事故防止が重要になります。認知症以外の疾患であれば、治療によって改善する可能性があります。

徘徊の特徴は、同じ方向に部屋の壁に沿って歩き回ります。猫自身は位置が分からなくなっているため、狭いところに入り込んでしまうと出れなくなってしまいます。徘徊がある場合、部屋に物を置かないようにしたり、狭い隙間などは塞いでおきましょう。サークルなどで生活するのもよいですが、布やビニール製の物の方がケガをしなくてよいと思います。

徘徊は夜鳴きとセットになることが多いです。飼い主さんの生活リズムが崩れてしまうようであれば、睡眠薬などを使用するのも良いでしょう。

粗相

認知症で粗相があっても、絶対に叱らないでください。猫自身は、トイレの場所がわからなくなってしまっているので、猫の生活スペースにいくつもトイレを置いて対応しましょう。認知症の高齢猫は、関節炎の痛みもあることがあります。同じタイプのトイレだけでなく、段差が少ないタイプのトイレもあると良いでしょう。

粗相も認知症以外の疾患、特に慢性腎臓病を併発している可能性が高いです。トイレの失敗が増えてきたら、必ず動物病院で診察を受けましょう。

高齢猫の場合、尿道や膀胱周囲の筋肉の低下も起こり、おしっこを漏らしてしまうかもしれません。その場合、おむつの使用を検討するのも良いでしょう。無理におむつをつけると嫌がってしまうため、少しずつ慣らして行きましょう。また、排泄物で汚れたおむつをつけっぱなしにすると、皮膚炎の原因になります。1日1回はぬるま湯で洗い、陰部だけでもシャンプーをしましょう。

動物病院に相談する

動物病院に相談する

認知症の症状は、認知症以外の疾患でも起こります。認知症の診断は、CTやMRIなどで脳の病変や萎縮を検出する必要がありますが、通常、認知症以外の疾患を除外して診断します。

他の疾患であれば、治療により症状が改善する可能性があります。また、高齢期になると認知症と併発していることも少なくありません。認知症だからと諦めず、治療により症状が軽快する可能性もあります。

動物病院では、介護に関する情報提供や、飼い主さんが少しでも休めるお手伝いができます。動物病院スタッフの中には、高齢期の介護について講習を受けている人もいます。認知症の介護でお困りでしたら、是非動物病院にご相談ください。

まとめ

まとめ

猫の認知症は、脳の障害であるため、コントロールすることは非常に難しいです。

しかし、夜鳴きや徘徊、粗相などは、飼い主さんにとって強いストレスとなります。介護生活は数日で終わるものではありません。愛猫が認知症になったら、猫のストレスだけでなく、飼い主さんもストレスを抱えないようにすることが大切です。

決して一人で抱え込まず、動物病院などで相談してみてくださいね。


コメント:1


  • ちぃ

    記事を読ませて頂き本当に勉強になりました。うちの愛猫は今24歳です。食事の量が増えましたが太る事はなく逆に痩せてきています。同じところを何度もクルクル周りながら鳴きます。トイレの失敗は毎回のようにあります。こちらが泣きたくなるくらい辛い時もあります。でも寝る時は必ず私の隣に来て寝ます。


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