【獣医師執筆】猫の扁平上皮癌とは?症状・原因・治療法と日常ケア

【獣医師執筆】猫の扁平上皮癌とは?症状・原因・治療法と日常ケア

 「猫の口の中にできものがある」「鼻や耳にしこりが見つかった」――そんな時に考えられる病気のひとつが猫の扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)です。口腔内や皮膚に発生しやすく、進行が早いため、早期発見がとても重要です。本記事では、症状・原因・治療法・日常のケアについて、獣医師がわかりやすく解説します。

猫の扁平上皮癌とは?

猫の扁平上皮癌とは?

扁平上皮癌の特徴(皮膚や粘膜にできる悪性腫瘍)

扁平上皮細胞とは、皮膚や粘膜を形成している細胞です。扁平上皮癌は、その扁平上皮細胞に由来する悪性腫瘍です。猫ではよく見られる腫瘍であり、特に口の中にできることが多く、猫の口腔内腫瘍の70~80%を占めると言われています。扁平上皮癌は局所浸潤性といい、腫瘍細胞が周りの組織に広がりやすく、遠隔転移しにくいのが特徴です。

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発症しやすい部位(口腔内、鼻、耳、皮膚)

扁平上皮癌は皮膚や耳、鼻、爪、口腔内など、様々な場所で発生します。口や顎にできるものは大きくなる傾向があり、食事が摂れなくなるなどの障害が現れます。

高齢猫に多いが若い猫にも発症する可能性あり

扁平上皮癌が発生する平均年齢は14歳と言われており、高齢猫に多く発生します。しかし、若い猫でも発生することがあるため、若いから大丈夫ということはありません。

猫の扁平上皮癌の症状

猫の扁平上皮癌の症状

口の中にできもの・潰瘍・出血

口腔内に扁平上皮癌ができた場合、初期では口の中が赤くなるなど、歯肉炎や口内炎と区別ができない病変ができます。腫瘍が大きくなってくると、潰瘍が作られたり、食事を食べるときに痛みが出るようになります。さらに腫瘍が大きくなると、口の中を腫瘍が占拠するため、常に舌やよだれが出ていたり、口を閉じられなくなります。潰瘍もひどくなるため、口臭がひどくなってきます。

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口臭やよだれが増える

扁平上皮癌が広がってくると腫瘍が大きくなったり、潰瘍が作られるようになります。潰瘍が細菌の二次感染を起こすと膿が出るようになり、悪臭を伴う濁ったよだれが出てきます。口臭もかなりきついものです。

鼻や皮膚にしこり・ただれが見られる

鼻や顎に扁平上皮癌ができた場合、骨に腫瘍が形成されるため、瘤のようになります。腫瘍が大きくなると骨折したり、顔の形が変形してきます。

皮膚にできる扁平上皮癌は、耳や鼻、爪などにできることが多く、皮膚が突然赤くなりただれてきます。かさぶたもできるため皮膚炎と間違われることがありますが、どんどん広がっていくのが扁平上皮癌の特徴です。

進行すると食欲不振や体重減少

扁平上皮癌は進行が早く、特に口や顎にできたものは大きくなりやすい傾向にあります。進行すると、咀嚼がうまくできなかったり、飲み込むことが難しくなり、食欲が低下し体重も落ちてきます。痛みも強いため、噛むことが難しくなることもあります。

原因とリスク要因

原因とリスク要因

紫外線の影響

猫の扁平上皮癌の原因はまだわかっていないことが多いですが、紫外線の影響を受けると考えられています。白色系の毛色の猫に発生が見られること、色素の薄い皮膚に発生しやすいことから、紫外線により発生する可能性が考えられています。

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生活環境によるリスク

扁平上皮癌の明確な原因はまだわかっていませんが、タバコの煙やノミよけ首輪などが発生リスクとして考えられるとの報告があります。

治療法と予後

治療法と予後

外科手術

転移がない場合、外科手術で完全に切除することが第1選択となります。しかし、顎にできた場合、顎を切除する必要があり、場合によっては舌も一緒に切除することがあります。その場合、自力でご飯を食べることができないため、食道チューブや胃ろうチューブを設置し、そこから食事を注入します。顔の形が大きく変化してしまうため、飼い主さんが受け入れられないこともあります。

顎や口腔の扁平上皮癌の外科手術は、治療以外に疼痛緩和やQOL向上を目的とした緩和治療でも行われます。

放射線治療や抗がん剤治療

転移があったり、外科手術で完全に取り切れなかった腫瘍の場合、放射線治療や抗がん剤治療を行います。いずれも完治することはできず、腫瘍が大きくなるのを抑えたり、痛みを抑えることが目的となります。

進行度による予後の違い

猫の扁平上皮癌は進行が早く、遠い場所への転移はあまり起こりませんが、すぐ近くの組織に進行していく局所浸潤性の高い腫瘍です。無治療の場合の予後は約2か月程度となります。外科手術により完全に切除されている場合、1年以上の生存を望むことができます。緩和治療の場合は、無治療とあまり平均生存期間は変わらなかったとの報告もあります。

日常ケアと飼い主にできること

日常ケアと飼い主にできること

定期的なチェック

口腔内にできた扁平上皮癌の初期は、歯肉炎や口内炎と区別がつかないことがあります。そのため、口の中を定期的にチェックし、異常がないかをよく観察しましょう。自宅でチェックが難しい場合は、動物病院でチェックしてもらうようにしましょう。

扁平上皮癌になった場合、進行が早いため治療をしても予後が悪いことがあります。再発も見られるため、再発チェックや近くのリンパ節に転移していないかなどを、数週間ごと動物病院でチェックする必要があります。しかし、それよりも早く異常が現れることもあるため、自宅で毎日チェックするように心がけましょう。

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食事の内容を工夫する

口腔内の扁平上皮癌の場合、ご飯を食べると痛みが出ることが多く、食事が摂りづらくなってしまいます。あまり咀嚼しなくてよい柔らかい食事やスープなどをあげてみるのもよいでしょう。

チューブでの食事管理が必要となった場合、チューブが詰まってしまわないような食事内容に変更しなくてはなりません。流動食などがチューブフィーディングに適しています。チューブでの食事は短時間では行えないため、時間と心に余裕を持って行いましょう。

日常ケアのポイント

扁平上皮癌は術後のケアも必要になります。例えば顎を切除した場合、チューブでの食事管理が必要になるだけでなく、よだれが垂れ流しになるためケアが必要になります。

チューブが入っているところは糸で縛ってありますが、そこにゆるみがないか、糸が取れていないか、チューブが抜けていないか、チューブが入っている皮膚に異常がないかを毎日チェックしましょう。消毒などが必要になることもあります。チューブで食事を与える際は、ちゃんと胃や食道にチューブが入っているかを確認してから食事を入れましょう。食事が終わったあとは水を通して、チューブが詰まらないようにすることも必要です。

顎を切除した猫はよだれが垂れ流しになるため、よだれがついた皮膚が皮膚炎を起こすことがあります。よだれがつかないようにスタイをしたり、きれいに拭いてあげましょう。

まとめ|猫の扁平上皮癌と向き合うために

まとめ|猫の扁平上皮癌と向き合うために

扁平上皮癌は進行が早く、初期の段階では他の疾患と区別がつかないことが多くあります。治りにくい皮膚炎や歯肉炎、口内炎は扁平上皮癌を疑う必要があります。様子を見ないで獣医師に相談しましょう。特に口や顎の扁平上皮癌は多く、腫瘍も大きくなりやすい傾向にあります。悪臭を伴う口臭やよだれ、食欲低下などが見られます。そのような症状があればすぐに受診しましょう。

残念ながら扁平上皮癌は進行が早く、再発も起こりやすい腫瘍です。様々なケアが必要になることもあります。最期まで愛情をもって接し、1日でも長くよりよい生活が送れるように支えてあげましょう。


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