猫の皮膚真菌症とは、カビによる皮膚の感染症です。抵抗力の低い子猫などで見られることがあり、人にも感染します。今回は猫の真菌症について詳しく解説します。
猫の皮膚真菌症とは?

真菌症(カビ)とは何か
真菌症とは、真菌と呼ばれるいわゆるカビが皮膚に感染する感染症です。
人では水虫が真菌症として有名です。真菌自体はもともと健康な皮膚にも存在し、常在菌の一つでもあります。健康な状態であれば、皮膚のバリア機能が真菌の侵入を防ぐため、症状が出ることがありません。しかし、体の抵抗力が低下すると皮膚のバリア機能が低下し、真菌が体内に侵入します。これが真菌症です。
「皮膚糸状菌症」とも呼ばれる理由
猫の真菌症は、糸状菌、カンジダ菌、マラセチアと言ったものが原因となります。皮膚に多い真菌症は、糸状菌が原因となっているため、皮膚糸状菌症とも呼ばれています。
他の皮膚病との違い
皮膚真菌症は、脱毛や痒み、痂皮形成といった他の皮膚病でも見られる皮膚病変が出現します。皮膚真菌症では、円形に脱毛し、脱毛部にかさぶたが見られることがあります。見た目だけで真菌症と診断することはできません。
猫の皮膚真菌症の主な症状と見分け方

円形脱毛、かさぶた、赤み、かゆみ
皮膚真菌症は円形の脱毛から始まることが多くあります。脱毛は徐々に広がっていきます。脱毛した皮膚に赤みが出て、フケやかさぶたができることもあります。痒みはあまり強くないことが多いです。

特に注意したい部位
皮膚真菌症になりやすい部位は顔や耳に多く見られます。しかし、免疫が弱い子猫やシニア猫、基礎疾患がある猫などは全身的にできることがあります。
症状が出にくい無症状感染にも注意
猫の中には真菌症にかかっていながら症状がない、無症状感染をしていることもあります。無症状といっても、数日すると脱毛などが起こってくることがあります。無症状感染は、真菌の胞子を周りに巻き散らすため、感染源となることがあります。
猫の皮膚真菌症の原因と感染経路

皮膚糸状菌の種類
猫の皮膚糸状菌症のほとんどが、Microsporum canisという真菌です。その他にMicrosporum gypseumやTrichophyton mentagrophytesが原因となることもあります。
他の猫との接触、環境、ペット用品からの感染
皮膚真菌症の原因真菌は、毛やフケに付着し、脱落しても長期間感染力が持続します。原因真菌は感染猫から直接感染する以外に、カーペットや猫用品を介して感染します。原因真菌が皮膚についても、相手の免疫力がしっかりしていれば感染は成立しません。
人にも感染する「人獣共通感染症」であることに注意
猫の皮膚真菌症は、猫だけの問題だけではなく、人や他の動物にも感染します。
特に人の場合、腕などに「リングワーム」と呼ばれる、円形の皮膚炎が出てくるのが特徴です。感染すると完治するまでに時間がかかるため、他の動物に新たに感染させてしまうこともあります。
筆者も度々真菌症がうつることがあり、現在治療中です。真菌の診察は手袋やガウン装着といった、感染防御の対策を取っていますが、それでも免疫力が低下していると感染してしまうため、注意が必要な感染症です。

診断と治療法(動物病院で行うこと)
ウッド灯検査、被毛検査、培養検査
皮膚糸状菌の中でもMicrosprum canisは、ウッド灯と呼ばれる特殊な紫外線を当てると蛍光を発します。また、その部分の毛を抜き取り顕微鏡で観察すると、毛の中に糸状菌の菌糸や胞子が観察されます。その毛を培地に入れ、真菌培養を行うと原因真菌の種類を特定することができます。
皮膚真菌症の皮膚症状は、他の皮膚疾患と似た症状があるため、他の皮膚疾患を除外するために様々な皮膚検査が行われることがあります。
抗真菌薬(外用薬・内服薬)、薬用シャンプー
皮膚真菌症の治療には抗真菌薬が用いられます。部分的な感染や症状が軽い場合は、抗真菌薬が入ったクリームなどの外用薬を使用します。全身に広がっていたり、外用薬で効果がない場合は抗真菌薬の内服を行います。
シャンプーができる猫であれば、抗真菌剤入りのシャンプーでこまめにシャンプーします。真菌は毛に感染するため、毛刈りを行うこともあります。
完治までに時間がかかることもあるため、継続治療が重要
治療開始から完治まで2週間から数ヶ月かかることがあります。さらに、治ったと思っても他の毛や抜け毛に付着していた真菌から再感染することもあります。抜け毛に残った真菌の感染力は、長い場合1年以上残ると考えられています。症状がなくなっても自己判断で治療を中断せず、獣医師の許可が出るまで治療が必要になります。
自宅でできる予防とケアのポイント

感染対策
新しい猫(特に野良猫や保護猫)を飼い始めた時は、真菌症があると思ってお世話するのが良いでしょう。
猫グッズは洗えるものはこまめに洗浄しましょう。洗えないものは薄めた次亜塩素酸で拭き掃除をしましょう。真菌は湿った環境を好むため、十分に乾燥させることも重要です。
人にも感染するため、猫に触ったら必ず手洗いをし、入浴は毎日するように心がけましょう。
ストレス軽減や免疫力を保つ環境づくり
真菌は免疫力がしっかりしていれば皮膚バリアで防御されます。真菌症にかかる猫は免疫力が低下しやすい子猫やシニア猫、基礎疾患がある猫です。
免疫力を保つために、ストレスが少ない環境で生活することが大切です。室温を適温に保ち、十分な運動が行えたり、休んだり逃げ込んだりする場所を確保しましょう。
多頭飼いの場合の注意点
多頭飼育の場合、1頭が感染すると他の猫にも感染します。感染猫は他の猫と接触しないよう、完全に隔離しなくてはなりません。他の猫も時間が経ってから発症することがあるため、皮膚症状がないかこまめにチェックしましょう。
猫の皮膚に異常を見つけたらすぐ動物病院へ

放置による悪化や家族への感染リスク
真菌症は放置しても自然に治ることはありません。抗真菌剤を使用した治療が必要になります。適切な治療が行われないと、全身に広がる可能性があります。
真菌は毛に入り込むため、抜けた毛も感染源となります。抜けた毛は長期間感染力があるため、再感染のリスクがあります。治療が行われないと常に感染力のある毛が抜け落ちることになります。抜け毛や皮膚病変から人に感染してしまいます。
他の皮膚病との見分けが難しいため、早期受診が大切
皮膚真菌症は脱毛やかさぶたなど、他の皮膚炎でもよく見られるため、見た目だけでは診断ができません。真菌は感染力が強いため、知らない間に周りに感染させてしまうこともあります。また、飼い主さんが勝手にステロイド入りの塗り薬を塗ったケースがあり、真菌症を悪化させてしまったことがあります。真菌症にステロイド剤は悪化させてしまうため、自己判断で薬を使用するのは絶対にやめましょう。皮膚の脱毛を見つけたら、すぐに動物病院を受診するようにしましょう。
まとめ

猫の真菌症は子猫や保護猫、シニア猫などでよく見られる皮膚疾患です。脱毛から始まることが多いですが、痒みが少ないため見落とされることもあります。しかし、感染力が強く、人や他の動物にも感染させてしまうため、早期治療と感染予防が大切です。
治療も長くかかるため、獣医師から許可が出るまでは治療と環境整備を行いましょう。そして、万が一飼い主さんに皮膚の症状があれば、人の皮膚科にかかるようにしてください。
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