日々の診療の中で、皮膚トラブルで来院される方はかなり多くいます。その中でも、しっぽの脱毛や強い痒みに悩まされている猫ちゃんは意外と見受けられます。愛猫がしきりにしっぽの毛をむしったり、血が出るまで舐めてしまう姿を見るのは、飼い主さんも辛いですよね。
猫が皮膚を舐めすぎたり、掻きすぎたりして起こる皮膚トラブルを「舐め壊し・掻き壊し」と呼びますが、猫のしっぽの舐め壊しや掻き壊しは、「アレルギーや外部寄生虫による皮膚炎」「ストレス」「痛み」が主な原因になります。放置せず、早めに対処することが重要です。
なぜ?猫がしっぽを「舐め壊し・掻き壊し」してしまう3つの原因

しっぽの「舐め壊し・掻き壊し」の主な原因は次の3つです。
- ストレスや不安(環境変化、退屈など)
- 皮膚の異常(ノミ・ダニ、アレルギー、細菌感染)
- 見えない痛み(関節炎、外傷、神経痛)
1. ストレスや不安からの「過剰グルーミング」
猫は不安や葛藤を感じた時、自分を落ち着かせるために毛繕い(転位行動)をします。転位行動は、不安解消とはまったく無関係な行動で、猫に見られる転位行動は毛繕い、爪とぎ、あくびがよく見られます。例えば、キャットタワーに登ろうとして失敗したとき、急に毛繕いを始めた経験はありませんか?これが転位行動です。通常、そのときだけで終わります。
しかし、引っ越し、新入りペット、トイレの汚れ、長時間の留守番など、日常の些細な変化が強いストレスとなると、転位行動が繰り返されてしまい、愛猫の生活に支障が出るレベルになってしまうことがあり(常同行動)、しっぽの毛がなくなってしまう、皮膚炎でぼろぼろになってしまうくらい、過剰なグルーミングをしてしまいます。
2. ノミ・ダニなどの寄生虫やアレルギー性皮膚炎、アトピー性皮膚炎
ノミやダニなどの外部寄生虫が猫の体についてしまうと、強い痒みを引き起こします。全身に痒みが出ることもありますが、お尻やしっぽの辺りはノミが付きやすく、ノミに対するアレルギー(ノミアレルギー性皮膚炎)の好発部位となります。ノミアレルギー性皮膚炎は強い痒みを引き起こすため、しっぽだけでなくお腹、背中なども掻き壊し・舐め壊しをしていしまいます。
食物アレルギーの場合、特定のフードを食べると痒みが出てしまい、掻き壊しがおこります。また、肛門付近の痒みや下痢を起こすこともあり、お尻やしっぽを執拗に舐めて舐め壊してしまいます。猫のアトピー性皮膚炎は環境中のアレルゲン(ノミやダニ、花粉などのハウスダスト)に対してアレルギー反応が出ることで、特徴的な皮膚炎や脱毛が起こります。強い痒みが起こるため、しっぽにかゆみが起こると舐め壊してしまいます。
3. しっぽの怪我や関節の痛み、神経系の異常
猫は痛いときにも舐めることがあります。舐めることで痛みを緩和しようとしているのです。しっぽをはさんだり、踏んでしまったり、落ちた時にぶつけてしまったり、様々な原因でしっぽに痛みが生じ、それを紛らわせるために舐め続けることがあります。皮膚表面ではなく「中」に問題があるケース。ドアに挟んだ、どこかから落ちて打撲したなど、関節の痛みや違和感を紛らわすために舐め続けることがあります。
猫の舐め壊しの原因の一つに、知覚過敏症候群(FHS)が原因になることもあります。知覚過敏症候群とは、背中がピクピクしたり、突然走り出したり、しっぽを激しく追いかけて噛みつくといった、様々な症状が現れる状態です。原因は神経、整形、精神的要因、外部寄生虫など多岐に渡り、これらを除外診断することで知覚過敏症候群と診断されます。治療はストレスの緩和や遊びを多く取り入れたり、飼い主さんの関わり方を変えたりすることで改善する場合が多くみられますが、改善までに時間がかかる場合があります。
しっぽの過剰グルーミングを放置する危険性とは?

脱毛から出血、化膿(二次感染)へ悪化
猫の舌はザラザラしているため、舐め続けるだけで皮膚は簡単に削れてしまいます。皮膚だけでなく、皮膚の下にある筋肉が見えるまで舐めてしまうこともあります。
毛が抜ける(脱毛)だけでなく、皮膚が破れて出血し、そこから細菌が入って化膿(二次感染)を引き起こし、重症の場合は敗血症を引き起こして命に関わることがあります。しっぽの場合、噛みつくことで組織が壊死してしまい、しっぽを切断する断尾手術が必要になることもあります。
舐め壊しが癖になる「常同障害」への移行
常同障害とは、ある行動を何度も繰り返してしまい、日常生活に支障が出てしまう状態です。ストレスなどで起こることが多いのですが、皮膚の舐め壊しを繰り返すうちに、「舐めることが習慣」となってしまい、止められない状態となってしまいます。常同障害はいわゆる心の病気です。常同障害まで進行してしまうと、皮膚がかなりひどい状態になっていても、舐め続けてしまいます。そうならないうちに、早めに治療に取り掛かる必要があります。
愛猫のしっぽの「掻き壊し」に気づいたら?飼い主さんがすべき対策

まずは患部を保護し、物理的に舐められないようにする
「ダメ!」と怒るのは逆効果です。猫にさらなるストレスを与えてしまい、舐め壊し・掻き壊しを悪化させてしまうかもしれません。
まずはこれ以上悪化させないための応急処置として、エリザベスカラーや皮膚保護服を使用し、物理的にしっぽに口や足が届かないように保護することが必要になります。柔らかい素材のソフトカラーでは、しっぽに届いてしまうこともあります。また、硬い素材のエリザベスカラーでは、カラーの縁でしっぽを傷つけることもあるため、カラーの縁を柔らかいもので覆うなどの対処が必要です。皮膚保護服はしっぽまでカバーできませんが、しっぽが噛めないと他の部分を舐めたり噛んだりすることもあります。しっぽは包帯などで保護し、さらに皮膚保護服を着せるのが良いでしょう。
原因を自己判断せず、すぐに動物病院を受診する
舐め壊しや掻き壊しの原因は様々であり、原因を特定して治療しないと解決しません。かゆみ止めが必要なのか、抗生剤が必要なのか、精神安定のケアが必要なのかは、獣医師は皮膚検査、画像検査、血液検査だけでなく、猫の性格や生活環境、予防歴などから総合して原因を特定します。そのため、飼い主さんが自己判断するのはやめましょう。
受診時に獣医師に伝えてほしいチェックポイント
- いつから、どれくらいの頻度で舐め壊しているか?
- 声掛けでやめるか?
- 舐めるタイミング(食後、留守番中など)はあるか?
- ノミダニ予防はしているか?
- 最近、生活環境に変化はあったか?
- 行動がかわっていないか?(性格が変わった、動きが鈍くなったなど)
生活環境の見直しとストレスケア
ストレスによる舐め壊し・掻き壊しの場合、皮膚炎に対する治療と並行してストレスケアも必要になります。トイレを清潔に保つ、キャットタワーで上下運動させる、一緒に遊ぶ時間を増やすなど、猫のストレス発散を促す環境づくりが必要です。また、知覚過敏症候群がある場合、飼い主さんの触り方なども見直す必要があります。いずれにせよ、猫のストレス緩和が必要です。
まとめ:しっぽの舐め壊し・掻き壊しは「早期発見と治療」がカギ!

しっぽの舐め壊しや掻き壊しは、単なる毛繕いではなく、体や心の不調を訴える重要なサインです。舐め壊しや掻き壊しには原因があります。「そのうち治るだろう」と様子を見ていると、猫自身がやめられない常同障害まで発展してしまうことがあります。早めに幹部を保護し、かかりつけ医に相談することが大切です。
たかがグルーミングと思わず、愛猫の小さなSOSに気づき、快適でストレスのない生活をサポートしてあげましょう。






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