高齢猫は体の衰えだけでなく、慢性腎臓病などの疾患によってトイレの失敗などが増えてきます。今回は高齢猫のトイレについて詳しく解説します。
高齢猫がトイレで困る主な原因とは?
関節痛や筋力低下による排泄の問題
12歳以上の高齢猫の約70%が関節炎に悩まされています。関節炎のうち、高齢猫で多く見られるのは変形性関節症です。変形性関節症は肘や肩、膝、足首、股関節などの関節に多く見られ、背骨でも起こります(変形性脊椎症)。変形性関節症は、関節に炎症や骨棘と呼ばれるとげができることで、痛みが現れます。痛いと猫は動きたがらなくなるため、筋力低下にもつながります。
関節炎の猫は少しの段差でも昇り降りが難しくなります。市販されている猫用トイレのほとんどがトイレの入口に段差があったり、またいで入る形状になっています。そのため、高齢猫はそのようなトイレに入ることができず、トイレ以外での粗相が増えてきてしまいます。
また、あまり歩きたくないために、自分の生活スペースのすぐ近くでトイレしてしまうこともあります、
認知症やストレスがトイレ行動に与える影響
高齢猫は認知機能の低下からトイレの場所がわからなくなってしまったり、家具の配置を変えただけでもトイレを見つけられずストレスを抱えやすくなります。トイレができないと、すぐ近くで粗相してしまいます。
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トイレの失敗が示す健康上のサイン
トイレの失敗は様々な病気のサインとして見られます。主な病気としては、慢性腎臓病、糖尿病、膀胱炎、尿石症、巨大結腸症、変形性関節症、腫瘍などです。
これらの病気は「おしっこの量が増えて我慢できない」「おしっこが出ない」「うんちが出ない」「うんちの回数が多い」「トイレまで歩けない」ため、トイレの失敗につながります。
高齢猫に適したトイレの選び方
出入りしやすい低い入り口のトイレのすすめ
市販されている猫のトイレの多くが、入口に段差があったり入口が高くなっています。これは、猫砂や排泄物が外に飛び散らないための設計です。しかし、高齢猫にとって、この段差をまたぐのが難しくなってきます。そのため、入口部分が低く作られたトイレがお勧めです。猫の行動学に基づいて設計されたものや、犬用トイレで代用するのもよいでしょう。
トイレのサイズや配置場所の工夫
猫の理想的なトイレは、猫の体の1.5倍の大きさがあり、トイレで体の向きを変えてもはみ出さない大きさが理想とされています。さらに、猫の飼育頭数+1個以上のトイレが必要です。特に高齢猫の場合は、自分の動ける範囲にトイレがあることが望まれます。
トイレの失敗時に飼い主ができる対応法
トイレを使わない理由を見極める
高齢猫がトイレを失敗しても、絶対に怒ってはいけません。トイレを失敗するのには理由があります。高齢猫がトイレを失敗する場合、病気のサインであることが多いため、トイレに行けない理由を見極め、早めに動物病院を受診しましょう。
猫がトイレを使わない理由は、トイレが汚いことがあります。1日に最低でも1回以上片づけましょう。高齢猫は腎臓病などでおしっこの量が増えてくることがあるため、こまめに片づけてあげるのがよいでしょう。また、痛みや動きにくさから、トイレまでたどり着けないこともトイレを使わない理由です。普段の歩き方やジャンプの仕方をよく観察しましょう。
おしっこトラブルや便秘があると、トイレに嫌な思い出ができてしまったり、粗相を繰り返すことがあります。ちゃんと毎日排泄できているか、量や色、硬さ、排泄時に鳴いていないかなどを観察しましょう。
排泄物のチェックでわかる健康のヒント
高齢になると、様々な病気になりやすくなります。排泄物のチェック項目としては、量、色、回数、排泄時の行動がポイントになります。
高齢猫のほとんどが慢性腎臓病になりますが、その症状として薄い尿がたくさん出るようになります。糖尿病でも同じように薄い尿をたくさん出すようになります。また、腎臓病や糖尿病は膀胱炎を起こすきっかけともなり、頻尿や血尿になります。尿路結石もおしっこトラブルで見られますが、尿をするときに痛がったり、尿が少ししか出ない、もしくはまったく出なくなります。
下痢や便秘は消化管の異常を表します。高齢になると、慢性腎臓病や腫瘍により、下痢や便秘になることがあります。これらの下痢や便秘は治療をしないと改善しません。
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トイレを失敗しても怒らないで
猫は本能により、砂がある場所をトイレと認識します。そのため、子猫でも特に教えなくても自然とトイレができます。高齢猫のトイレの失敗は、トイレの場所がわからなくなったり、トイレに間に合わないことが原因で起こります。猫がわざとトイレを失敗しているわけではないので、絶対に怒らないでください。トイレを失敗する原因を見極め、失敗を受け止める心の広さが必要になります。
認知機能の低下の場合、猫の動く範囲にトイレを設置し、排泄物のにおいがついたティッシュなどを入れておき、トイレのタイミングで連れて行ってあげることも必要です。時間がかなりかかりますが、根気強く誘導してあげましょう。
高齢猫の排泄トラブルを予防するためのケア
食事と水分管理
高齢になると腎臓病になることが多いため、食事を療法食に変更することがあります。また、関節炎の猫の多くが肥満体型であり、減量用の療法食が提案されるかもしれません。高齢期は運動量が低下するため、カロリーオーバーになりやすい傾向にあります。病気がなくても高齢猫用のフードに変える必要があります。
水分摂取も重要になります。もともと猫は水分を多く摂らない動物ですが、高齢になるとさらに減ってしまいます。認知機能の低下や筋肉量の低下などで、以前までの水飲み場まで行けなくなっているかもしれません。フードも水も、猫の生活スペースから近いところに置き、水飲み場の数を増やしてあげましょう。
食事量や飲水量が減ってきますが、フードや水を置きっぱなしにすると雑菌の繁殖につながります。残っていても、1日に数回は交換しましょう。
定期的な健康診断で早期に異常を発見
7歳以上の猫をシニア期と言います。まだ若いという印象があるかもしれませんが、7歳以上になると、慢性腎臓病、糖尿病、腫瘍などの疾患が増えてきます。猫の場合、動物病院を受診を控える傾向にありますが、何かの症状が出てから受診したときには、すでに末期の状態になっていることも少なくありません。そのため、定期的に健康診断を受けることが重要です。特に7歳以上の猫は、年2回の健康診断が推奨されています。健康な状態でも、すでに初期の病気だったということもあります。若いうちから定期的に健康診断を受けるようにしましょう。
ストレスを軽減するための環境作り
高齢猫は認知機能の低下のため、トイレの場所がわからなくなってしまうことがあります。また、部屋の模様替えを行うと、ストレスがかかるだけでなく、トイレが見つけられなくなってしまうことがあります。そのため、高齢期はなるべくストレスを与えないように配慮し、部屋の模様替えなどは極力控えるようにした方がよいでしょう。
「高齢猫の運動のために」と、新しく子猫や子犬を迎える方が少なからずいます。新しい動物を迎え入れることは、高齢猫にとって大きなストレスとなり、体調を崩してしまうかもしれません。どうしても飼わなければならないのであれば、部屋を分けるなど環境を整えてから迎えるようにしましょう。
獣医師による治療が必要なケースとは?
泌尿器疾患の可能性
薄い尿が多く出てくる場合、高齢猫では慢性腎臓病になっている可能性があります。慢性腎臓病は、残念ながら現在の獣医療では有効な治療法がなく、症状に合わせた対症療法のみが行われています。初期症状はあまりなく、進行してくると薄いおしっこが大量に出てきます。この段階では、腎臓機能がかなり低下してきており、すぐに治療が必要になることがあります。
尿が出にくかったり、頻尿、血尿、全く尿が出ない場合は、尿路結石や膀胱炎の可能性があります。トイレに入っても尿が出ない状態が半日以上続くと、腎機能の低下につながります。命に関わる状態のため、様子を見ないですぐに動物病院を受診してください。
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慢性便秘や下痢が続く場合
高齢猫は、消化機能の低下や筋力の低下だけでなく、病気によっても便秘や下痢が起こりやすくなります。ひどい便秘の場合、自力で便を出せず、嘔吐や食欲不振になることがあります。その場合、浣腸や麻酔をかけて便を掻き出す必要があります。
下痢が長く続いた場合、脱水や栄養不足に陥る可能性があります。また、肛門も荒れてくることもあり、猫にとっても苦痛を伴います。下痢を止める薬や点滴が必要になることがあります。
認知症の治療法と生活サポート
高齢猫の中には認知機能が低下し、人の認知症と同じような症状が出ることがあります。夜泣きや徘徊、排泄の失敗などが起こります。猫の認知症は治療法はありませんが、アンチエイジングのサプリなどで維持することがあります。夜泣きがひどい場合、飼い主さんの生活の質(QOL)が低下するため、猫に睡眠薬を処方することがあります。また、徘徊でのケガ防止のため、限られた空間で生活してもらうようにアドバイスすることがあります。
まとめ
高齢猫のトイレ問題は、痛みや病気、認知機能の低下などで起こります。トイレを失敗するのを怒るのではなく、失敗する原因を突き止め、失敗しないようにサポートすることが大切です。
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