数年前に、猫の腎臓病に関係する物質が明らかになり、メディアに取り上げられました。
猫を飼っている人だけでなく、飼っていない人でも猫が腎臓病になりやすいことが知られるようになりました。慢性腎臓病を患っている猫は高齢猫に多く、7歳以上の猫の3~4割、15歳以上の猫の8割が慢性腎臓病を患っており、腎臓病は猫の死因の第1位を占めています。
今回は、猫の腎臓病について解説します。
猫の腎臓病とは
猫の腎臓病には、急性腎臓病(急性腎不全)と慢性腎臓病(慢性腎不全)の二つがあります。
急性腎臓病
急性腎臓病は、出血や血圧の低下により腎臓に血液が循環せず、体内の老廃物などが尿として排出されない状態のことを言います。主な原因としては、出血や手術で腎臓への血液循環が減少することで起こります。また、腎臓に影響のある毒物や薬物、有毒植物によっても起こります。代表的な例では、昔の不凍液に含まれるエチレングリコールや、殺鼠剤のヒ素などによる中毒があります。
慢性腎臓病
慢性腎臓病は、腎臓が数か月以上障害を受けることで起こります。慢性腎不全は治療をしても治ることがなく徐々に進行し続け、最終的に末期の腎不全や尿毒症に至ります。
腎臓機能の検査として、血液検査による血中尿素窒素やクレアチニンで評価しますが、これらの項目は腎臓の約75%の機能が失われた段階で異常値を示します。最近では、SDMAという腎機能の評価項目も出てきました。SDMAは腎機能が約40%失われた状態で異常を示すため、より早期に腎臓病を診断できる評価項目として注目されています。
慢性腎臓病は7歳以上の高齢猫に多く、死因の第1位となっています。また、5歳ごろから腎機能は徐々に低下すると考えられています。主な原因としては長年明らかになっていませんでしたが、近年「AIM」という物質が腎臓の老化に関係しており、猫ではAIMが機能していないことが明らかになりました。AIMが猫の腎臓病の治療薬になる可能性があるとして期待されています。
アビシニアンやペルシャは遺伝的に腎疾患にかかりやすい傾向があります。また、多発性嚢胞腎という疾患がペルシャやエキゾチック・ショートヘアなどの種類の猫に多く、慢性腎臓病になりやすい傾向にあります。また、尿路結石や膀胱結石が長く続くことでも、慢性腎臓病になることがあります。
猫の腎臓が悪いとどんな症状が出るのか
急性腎臓病と慢性腎臓病の症状について、それぞれ説明します。
急性腎臓病の症状
急性腎臓病は、急激な元気消失、食欲不振、嘔吐、下痢が起こります。また尿量が減少したり、出なくなります。低体温を起こしていることもよくあります。
慢性腎臓病の症状
慢性腎臓病には4つのステージがあり、それぞれのステージで症状が異なります。
初期(ステージⅠ)
初期の段階では症状はありません。血液検査や尿検査で異常が見当たらない時期です。
中期(ステージⅡ)
軽度の食欲不振や体重減少、多飲、多尿が起こり始めます。尿検査で尿比重(尿の濃さ)が低下し始め、薄い尿が出ます。
血液検査では、クレアチニンや尿素窒素が正常からやや高値になります。
後期(ステージⅢ)
後期に入ると、血中尿素窒素やクレアチニン値が上昇します。腎機能はかなり低下しているため、薄い尿になります。
食欲が低下し、体重も減少します。嘔吐も起こり始めます。腎臓から出てくる造血ホルモン(エリスロポエチン)が減少するため、貧血が起こります。水を飲んでも体に吸収されず、尿として排泄されるため、脱水を起こします。背中の皮膚をつまむと、戻りにくくなるのは脱水の兆候です。
動物病院で診察した高齢猫では、慢性腎臓病ステージⅡ、Ⅲと診断されることが多くあります。
末期(ステージⅣ)
末期は尿毒症期とも呼ばれ、尿毒症の症状が現れます。食欲はまったくなくなり、頻回に嘔吐します。非常にやせ細り、脱水も強く現れます。体中から尿の臭いがしてくることも多く見られます。尿毒症により、けいれんを起こすこともあります。貧血が進行し、口の中が白くなります。また、口内炎も起こりやすくなります。
末期に入ると、治療をしてもあまり延命は望めません。
猫の腎臓病は治るの?治療法は?
急性腎臓病と慢性腎臓病では治療法が異なるため、それぞれについて説明します。
急性腎臓病の治療法
急性腎臓病は、原因が解消されれば改善する可能性が非常に高い疾患です。そのため、まず何が原因なのかしっかり検査を行い、原因を見つけます。
急性腎臓病の場合、脱水がひどく起こっていることがあります。血管から急速に点滴を流し、脱水を治します。体のイオンバランスが崩れていることが多いので、イオンバランスの補正も行います。急性腎臓病では嘔吐が起こるため、吐き気止めを使用します。
透析(腹膜透析)が行える施設では、透析療法を行うこともあります。
慢性腎臓病の治療法
慢性腎臓病の場合、現段階では残念ながら決定的な治療法はありません。どの治療法も、腎臓病の進行を抑えたり、症状を抑えることが目的となります。
慢性腎臓病はステージ毎に治療法が異なります。
初期の段階であれば、腎臓病に対する食餌療法が行われます。
中期の段階では、初期と同じく食餌療法がメインになります。また、腎臓病の進行を抑制するために、降圧薬などが使用される場合があります。抗酸化作用を持つサプリなども有効とされています。
後期に入ると、吐き気などから食欲が低下します。基本的には食餌療法がベースとなりますが後期に入ると、輸液療法も必要になります。輸液療法は基本的には毎日行います。点滴で脱水を改善させ、吐き気止めなども使用します。貧血がひどく起こっている場合には、造血剤を使用することもあります。
末期の段階では、輸液療法がメインになります。透析が行える施設であれば、透析を行います。食欲がなくなるため、カテーテルでの栄養補給も必要になります。貧血がかなり進行してくるため、輸血を行うこともあります。
まとめ
腎臓病は猫にとって致命的になります。特に慢性腎臓病の場合、治すための治療法は確立されておらず、少しでも進行を抑えることがメインになります。
慢性腎臓病は、初期の段階ではほとんど症状がなく、健康診断などで偶然見つかるケースがほとんどです。症状が出て病院を受診したときには、かなりステージが進んでいます。
早期の段階で腎臓病を発見するには、1年に1~2回の健康診断と、日ごろからの飼い主さんの観察力が重要になります。
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