猫の多発性嚢胞腎とは?症状、診断・治療法を獣医師が詳しく解説

猫の多発性嚢胞腎とは?症状、診断・治療法を獣医師が詳しく解説

多発性嚢胞腎は、腎臓に嚢胞と呼ばれる袋ができ、徐々に大きくなる遺伝性の病気です。最終的に腎臓の機能が低下し、慢性腎臓病になります。

今回は猫の多発性嚢胞腎について、詳しく解説します。

猫の多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)とは?

猫の多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)とは?

多発性嚢胞腎の基本情報

多発性嚢胞腎は、腎臓に嚢胞と呼ばれる袋が作られ、腎臓の機能が低下する病気で、最終的に慢性腎臓病を発症します。多発性嚢胞腎は腎臓のタンパク質を作る遺伝子に異常があるため、小さい頃から嚢胞が作られ、加齢とともに徐々に嚢胞の数が増え、大きくなります。その結果、腎臓の正常な細胞が壊されてしまい、腎臓機能が低下し慢性腎臓病を引き起こします。遺伝子異常のため、この病気の猫から生まれた猫も発症します。

嚢胞は生後10ヶ月くらいから出現し、早いと3歳程度で腎臓病の症状を発症します。多発性嚢胞腎の猫の寿命は短く、平均で7歳くらいが寿命と言われています。

遺伝的要因と発症リスク

多発性嚢胞はペルシャ猫やアメリカン・ショートヘア、スコティッシュ・フォールドなどで遺伝性疾患として確認されています。まれではありますが、遺伝性でない多発性嚢胞腎も存在します。

多発性嚢胞腎は遺伝子の異常で起こります。常染色体優性遺伝といい、1対の遺伝子のうち、どちらか一つにこの遺伝子異常があると必ず発症します。その遺伝子は子供にも受け継がれ、どちらかの親が多発性嚢胞腎の場合、生まれてくる子猫の50%が発症します。多発性嚢胞腎と診断されている猫を交配に用いないように、ブリーダーへは指導されています。

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多発性嚢胞腎の症状と診断方法

多発性嚢胞腎の症状と診断方法

多発性嚢胞腎は初期段階では症状があまり出ないため、健康診断などで偶然見つかることが多くあります。

多発性嚢胞腎の症状

多発性嚢胞腎は慢性腎臓病と同じ症状を示しますが、初期ではあまり症状がありません。薄い尿が多く出て、水をよく飲むようになったことで気づくこともありますが、多くの場合、進行した段階での発見となります。

多発性嚢胞腎の主な症状は、多飲多尿、食欲不振、嘔吐などになります。これらの症状以外には、口内炎、下痢、便秘、体から尿の匂いがするなどがあります。

多発性嚢胞腎の診断

動物病院では、まず触診で腎臓の大きさや硬さを評価し、問診で猫の種類や血縁に多発性嚢胞腎の猫がいないかなどを確認します。そして血液検査や尿検査で腎機能の評価を行います。多発性嚢胞腎の場合、エコー検査で腎臓に嚢胞ができているかを確認します。症状がある場合、ここまでの検査は必ず行います。確定診断を行うには、遺伝子検査を行うことがあります。

多発性嚢胞腎の治療

多発性嚢胞腎の治療

多発性嚢胞腎は遺伝性の病気であり、現在の獣医学では治療法が確立されていません。最終的に慢性腎臓病を発症するため、慢性腎臓病の治療を行います。慢性腎臓病の治療は主に食事療法と薬物療法が行われ、症状を改善するための対症療法がメインとなります。

食事療法

腎臓に負担をかけないように、タンパク質やリンを抑えた腎臓病の療法食への切り替えが必要になります。また、脱水を起こしやすくなるため、水分補給が重要になります。水分が常に摂れるように、何か所かに水飲み場を設置する必要があります。

薬物療法

残念ながら多発性嚢胞腎を完全に治す治療法はありません。そして、慢性腎臓病も治療法がありません。多発性嚢胞腎から慢性腎臓病に移行した場合、慢性腎臓病の進行を抑え腎臓を守る治療法が行われます。また、つらい症状が出るため症状を抑える対症療法が行われます。

腎臓を守るために血圧を下げる薬や、血液中に過剰になったリンを排泄する吸着剤、血液中の老廃物を吸着する活性炭、吐き気を抑えるための吐き気止めや制酸剤、腎臓病から起こる貧血を改善するためのエリスロポエチン製剤などが使われます。

腎臓病になると、体に必要な水分が尿として排泄されてしまい、脱水傾向になります。そのため、皮下点滴をして水分を補い、老廃物を尿に出しやすくします。

最近では慢性腎臓尿と腸内細菌との関係が注目されており、腸内細菌が腎臓病の悪化要因となっていると考えられ、腎臓病に注目した乳酸菌製剤も登場しています。乳酸菌製剤以外にも、抗酸化作用のあるサプリなども腎臓病に用いられます。

多発性嚢胞腎の早期発見とケア

多発性嚢胞腎の早期発見とケア

早期発見のポイント

多発性嚢胞腎はペルシャ猫に多くみられ、ペルシャ猫を交配に用いているアメリカン・ショートヘアやスコティッシュ・フォールドなどは発症する可能性があります。そのため、ペルシャ猫はもちろん、好発猫種とされている猫はなるべく早い段階から腎臓の検査を受ける必要があります。多発性嚢胞腎の場合、早ければ生後10か月ごろから嚢胞を確認することができます。そのため、1歳くらいから定期的に腎機能の検査を受けましょう。

多発性嚢胞腎の初期症状はあまりありませんが、そこから慢性腎臓病になった場合、多飲多尿や食欲不振、体重減少が見られるようになります。いつもと様子が違うと感じたら、すぐ動物病院を受診しましょう。

多発性嚢胞腎の猫のケア

多発性嚢胞腎と診断されても、腎臓病になっていない場合は経過観察となりますが、早い段階で腎臓療法食への切り替えが必要になります。予防的にサプリを使用するのもよいでしょう。

慢性腎臓病になった場合、体から水分が失われやすくなります。そのため、猫の生活スペースに水飲み場を増やしましょう。あまり水を飲まない場合、動物用の経口補水液やウェットフードのスープを少し混ぜるのもよいでしょう。飲み水は新鮮なものを用意し、毎日変えましょう。

この病気は進行を遅らせることが重要となります。そのため、投薬や食事療法は獣医師の指示に従って行い、定期的な診察を受けましょう。最終的には皮下点滴が必要になります。通院でも行えますが、自宅で行う方も少なくありません。飼い主さんのライフスタイルや猫の性格からどちらがよいのか、獣医師とよく話し合いましょう。

まとめ

まとめ

多発性嚢胞腎は遺伝性の病気であり、遺伝子を持っていれば必ず発病します。残念ながら治療法はないため、進行を遅らせることが重要になります。1日でも長く一緒にいるために、早期発見、早期治療、そして定期的な診察を受けましょう。

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