【獣医師が解説】猫の変形性関節症:症状、原因、効果的な治療法ガイド

【獣医師が解説】猫の変形性関節症:症状、原因、効果的な治療法ガイド

関節炎は関節に炎症が起きる疾患ですが、関節炎の中でも変形性関節症が猫には多く見られます。変形性関節症は12歳以上の高齢猫で多く見られますが、「年だから動きが悪くなった」と見過ごされやすい疾患でもあります。

今回は猫の関節炎の中でも多い、変形性関節症について詳しく解説します。

猫の関節炎とは?

猫の関節炎とは?

猫の関節炎のほとんどが変形性関節症です。骨と骨の間にある関節には、クッションとなる軟骨や関節液が存在します。クッションの役割を果たしている軟骨に、過度に負担がかかると、軟骨が変形してしまい、変形性関節症になります。

変形性関節症は12歳以上の高齢猫に多いとされていますが、1歳以上の猫の90%が変形性関節症であり、1歳の猫でも何らかの関節炎症状が出ていることがあります。

関節炎の原因として挙げられるものは、加齢、肥満、過度な運動、外傷、遺伝、繰り返す脱臼や亜脱臼などがあります。

遺伝性の変形性関節症としては、スコティッシュ・フォールドの骨軟骨異形成症から関節炎に発展します。スコティッシュ・フォールドの骨軟骨異形成症は関節を形成するタンパク質に異常を起こすもので、垂れ耳のスコティッシュ・フォールドに見られます。

遺伝子の異常があり、その遺伝子を持つと必ず発症します。両親のどちらかにこの遺伝子異常があると、生まれてくる子猫の50%が発症します。骨瘤と呼ばれるコブが関節にでき、痛みや動きにくさが現れます。関節の異常によって、軟骨が常に刺激を受けるため、変形性関節症になりやすくなります。

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関節炎の症状

関節炎の症状

関節炎による猫の行動変化

変形性関節症の猫は、関節が痛むためにあまり動きたがらなくなります。遊ばなくなったり、キャットタワーに登らなくなったり、ジャンプを躊躇することもよく見られます。痛みで爪研ぎをしなくなるため、爪が分厚く伸びてしまい、肉球に刺さってしまうこともあります。毛繕いができにくくなるため、毛質が悪くなったりすることもあります。なた、食事や飲水の時に首を下げるのが辛く、食事量や飲水量が減ってしまうこともあります。トイレの段差をまたげないため、粗相することもあります。

これらの症状は、高齢だから仕方ないと飼い主さんが思ってしまい、病院への受診につながらない現状です。

痛みのサインを見逃さないためのポイント

変形性関節症は、重症化しないと足を引きずることはありません。何となく動きが悪い、遊ばない、ジャンプを躊躇する、高いとこから下りるのが下手になった、などが初めに気づく症状です。寝ている時間が長くなったと言って来院され、診断に至るケースもあります。今までできていたことができなくなったのは、変形性関節症の症状かもしれません。

爪や毛艶に変化が出るのも、変形性関節症の症状の一つです。爪切りがしにくくなった、切りにくくなった、毛がゴワゴワするなど、些細な変化に注意が必要です。

変形性関節症の原因と診断

変形性関節症の原因と診断

変形性関節症の原因

変形性関節症の原因は、遺伝性のものと生活習慣によるもの、外傷によるものに大きく分かれます。

遺伝性の原因は、スコティッシュ・フォールドによく見られる骨軟骨異形成症候群により、関節炎が起こります。

生活習慣が原因の関節炎は、肥満、加齢、過度の運動で、割合としてはこちらの方が多いと思われます。

外傷によるものは、過去のケガや脱臼により、慢性的に炎症が起きることで変形性関節症が起こります。

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変形性関節症の診断

変形性関節症の疑いがある場合、問診、触診、歩行の確認を行います。病院ではあまり動けない猫が多いため、自宅での動きやジャンプの仕方を事前に動画撮影していただきます。

変形性関節症の診断はレントゲンにて行います。レントゲンで関節の変形や、骨棘と呼ばれるトゲなどを確認します。変形性関節症は手足の関節だけでなく、背骨に現れることもあり(変形性脊椎症)、背骨と背骨の間に骨棘を確認します。

遺伝性の骨軟骨異形成症候群の場合は、遺伝子検査を行うこともあります。

変形性関節症の治療法

変形性関節症の治療法

変形性関節症の治療は、薬物療法、環境整備、体重コントロールの3本柱で行われます。

薬物療法

変形性関節症は痛みが伴うため、消炎鎮痛剤を使って痛みをコントロールします。注射薬や内服薬がありますが、注射薬の場合は1か月に1回の注射で効果が出るものもあります。高額な注射薬になりますが、変形性関節症への効果が高く、注射薬を選択される飼い主も増えています。内服薬は従来から使われている消炎鎮痛剤がメインになりますが、腎機能の障害が出ることもあり、長期的には使えません。その他の治療として、鎮痛作用のあるサプリメントを使用することもあります。

環境整備

変形性関節症のある猫は、痛みにより動きが制限され、無理に動かすと悪化する恐れがあります。自宅の生活環境を整えてあげる必要があります。

猫が生活するスペースの床は、滑りにくい素材のマットなどを使用しましょう。また段差を上り下りするのが困難になるため、スロープを設置するのもよいでしょう。トイレに入りにくいようであれば、トイレの入口の段差が少ないものに変更しましょう。

食事の時に首を上げ下げするのが苦痛を感じるようになるため、高さのある台で食事をさせるようにしましょう。市販で高さが角度を調整できる食事台が販売されています。

キャットタワーなどの高いところは、登るのも難しくなりますが、転落するとケガをする恐れがあります。あらかじめ撤去することをお勧めします。

あまり動きたがらないため、食事量や飲水量が減る可能性があります。猫の生活スペースに食事や水、トイレを置くようにしましょう。

体重コントロール

肥満の猫は関節への負担が大きく、変形性関節症を引き起こします。体重が適正体重よりも重いのであれば、ダイエットが必要です。まず食事量を見直しましょう。食事での摂取カロリーが、消費されるカロリーよりも多ければ太ります。食事量を少し減らすことが必要です。ただし、猫は絶食をすると肝臓への負担がかかるため、絶対に絶食させないようにしましょう。減量の目安としては、1週間で2%くらいの減少が体への負担が少ないです。

変形性関節症の猫は、痛みで動くことが難しく、運動で悪化する可能性もあるため、無理に遊びに誘ってダイエットするのはやめましょう。

変形性関節症の予防法

変形性関節症の予防法

若いうちから体重管理をしましょう

肥満によって変形性関節症が引き起こされます。体重が増えすぎてからのダイエットは時間もかかってしまい、飼い主さんも猫もあきらめてしまいます。避妊や去勢手術が終わると、体重が増加していきます。変形性関節症は早い猫だと1歳から出現します。手術が終わったら、避妊・去勢後用にフードを変更し、体重が増えないように調整しましょう。それでも太ってしまったら、減量用の療法食で管理することも必要になります。

無理な減量はリバウンドするだけでなく、体への負担も大きくなります。獣医師の指導の下、減量に取り組むことをお勧めします。

サプリメントも検討しましょう

サプリメントの中には鎮痛効果があるものや、抗酸化作用のあるものなど様々なサプリメントが販売されています。動物病院で扱っているサプリメントには、関節炎に効果があるものがあります。関節の外傷や骨軟骨異形成症候群の猫はもちろんのこと、それ以外の猫が使っても問題ありません。アンチエイジング効果や腎機能の保護なども確認されているサプリメントを取り扱っている場合もあります。

市販で売られているサプリメントの場合、動物病院で処方されるサプリと異なり、効果がないものもあります。購入される場合は、動物病院で説明を受けて購入されることをお勧めします。なお、すべての動物病院がサプリメントを取り扱っているわけではないので、購入される場合は獣医師とよく話し合うことが必要です。

定期的に健康診断を受けましょう

変形性関節症は高齢猫に多い病気です。高齢だから動かないわけでなく、痛みで動けなくなっているかもしれません。猫の健康診断の中には、シニア猫に対応したコースを設けている動物病院もあります。変形性関節症の確認のために、胸やお腹のレントゲン以外に、手や足の関節のレントゲン撮影までがセットになっている動物病院もあります。

7歳以上の高齢猫は年に2回の健康診断を受け、病気の早期発見に努めましょう。

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まとめ

まとめ

猫の変形性関節症は、よほど症状が重くない限り、飼い主さんが気づくことは難しいかもしれません。猫があまり動かなくなったのは、もしかしたら関節の痛みによるものかもしれません。「年だから」という言葉で片づけず、動物病院で関節の状態を確認してもらいましょう。


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